青年経済人の生の声を届ける
日本青年会議所の第69代会頭石田全史は、2020年3月30日、同会議所のメンバーたちと、当時の自民党政調会長であった岸田文雄、1999年の日本青年会議所会頭を務めた参議院自由民主党政策審議会長の松山政司を訪問した。
昨年は3月中旬から下旬にかけて、都心部を中心に新型コロナウイルス感染症患者数が上昇。このころから、医療崩壊が懸念されるようになる。政府、各自治体は国民に不要不急の外出の自粛を要請、企業にはテレワークへの移行を求めた。その一方で中小企業の経営の悪化が懸念されるようになる。石田はこの提言書のなかでも特に自らが強く訴えたことを次のように話す。
「私は、2011年の東日本大震災の被災者です。その経験からお話しすると、こうした危機のとき、中小企業経営者は収入と支出のバランスが崩れると、先行きが不安になります。出ていくお金が少なければ、コロナ禍でも当面の事業は継続できます。
震災のときには、被災地の企業は借入金の返済を猶予してもらいました。売り上げがなくても、返済がなくなれば、無担保、無利子の融資制度を利用して、人件費、家賃などの固定費を払えます。岸田政調会長には、国の支援として必要なのは、中小企業が生き残るための政策だと提言しました」
資金調達ができず、支払いができなければ会社が倒産することは、自明の理だ。
「このコロナ禍で中小企業も売り上げが落ちるのは予想できました。売り上げを補填する政策も必要ですが、中小企業は、キャッシュフローさえ回っていれば、赤字でもランニングはできます。決算上は赤字でも、設備投資や運転資金で借りたお金を一度銀行が凍結してくれれば、コロナ禍でも事業を安定させることができると考えたのです。岸田政調会長にはよく理解していただき、その後の国の政策に反映されました」
石田はその日のことを鮮明に記憶している。
「日本青年会議所には、JCCSという、全国のメンバーの意見を集約するアンケートシステムがあります。『このコロナ禍であなたがいま困っていることは何ですか』という直接的な問いに対して、675人から回答を得ました。日本青年会議所に所属するメンバーの約9割が中小企業経営者です。
提言書のベースとしたのは、このメンバーたちのコロナ禍での困り事でした。私の予想以上に悲痛な声が多かった。そうした青年経済人の生の声を届けるために、あえて私たちは自分たちだけで提言書をつくり、岸田政調会長に渡すことにしました。
提言書は『経済対策』『個人支援』『収束後の対策』を3つの枠組みとし、最も強調したのは『経済対策』でした。前述しましたが、手元流動性の低い中小企業は収入と支出のバランスが崩れると、不安に陥ります。青年経済人で組織される日本青年会議所のアンケートが示したのは、資金繰りは一刻の猶予も許されない状態だという事実です。金融機関による無担保・無利息の融資制度のほかに、給付金、助成金などの支援、感染防止策についても議論を交わしました」