古代から野生のハーブや花を食や薬として使い、いまだに街のあちこちにエルボステリアというボタニカル専門薬局があるイタリアでは植物は薬としてはもちろん、スパイスやハーブ、染料やオイルなど日常的に植物を扱う生産業がたくさん存在する。ヴェネツィアには植物を専門とするビジネススクールもあるくらい植物が仕事や産業に結びついているのだ。
そんなイタリアという国で新たに植物を軸とした環境ビジネスを展開しているのが、東京で100年以上の歴史を持つ環境緑化企業のグリーン・ワイズ代表の田丸雄一氏だ。もともとは老舗の造園業の3代目である田丸氏が、海を超えミラノで「Green Wise Italy」を創立したのは2018年。
その数年前にイタリアの花き産業の視察に訪れた時に感じた疑問が、今の事業に繋がっているという。それは生活のあらゆるシーンで植物を多用し、特に食に関してビオという概念が浸透しサステナブルな生産のあり方に配慮するイタリアが、観賞用の花や植物を育てる花き産業では、農薬や殺虫剤の使用に驚くほど配慮がないことへの気づきだった。
グリーン・ワイズ代表の田丸雄一氏
ボタニカル=サステナブルではない
美しい薔薇には棘があると言うが、実は現代社会の薔薇には棘以上に毒がある。この場合の毒というのは2つの意味を含んでいる。環境を痛めつける毒、そして人間の健康リスクという毒だ。
一年中美しい花を咲かせるため、多くの花や観葉植物は大量に二酸化炭素を排出するグリーンハウスで集約的に作られる。イギリスの大学機関のリサーチによると、ロンドンでオランダ産の薔薇を一輪買うと、3kgの炭素を排出する計算になるという。
生産コストが安い南米やアフリカからの輸入に頼れば、切り花は農場、大型トラック、飛行機、ボートの一連の冷蔵施設である「コールドチェーン」を使用して迅速に輸送する必要があり、その炭素排出も莫大だ。日本で花き産業は2000年頃まで世界トップ規模だった。今でもオランダ・アメリカに次ぐ市場規模を持っている。
しかし、現在アメリカで売られている花の65%を輸入に頼っている。日本でも、菊はかろうじて8割は国産だが、母の日に贈るカーネーションは6割以上がコロンビアやマレーシア、中国などからの輸入なのだ。
これら花き産業は実は世界各国の農家に深刻な健康被害ももたらしている。2000年初頭からコロンビアやコスタリカの花農家の労働者の半数以上が皮膚の発疹、頭痛や目眩など農薬や除草剤による中毒症状を訴え続けている。ここ20年で随分改善されていると言うが、いまだに食べ物よりもずっと緩い規制しかない。
長距離の配送に耐え、箱詰めが楽な画一的規格に沿うよう改良され、人工的に整えられた一点の曇りない「美しさ」を保ち続けるためには多くの犠牲が払われている。これらの強濃度の農薬に曝露されることは、花を日常的に扱うあらゆる店舗や業者はもちろん、それを愛でる消費者にとってもリスクがないと言えるだろうか。