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2021.01.09 12:00

豊田章男の分岐点 「逆境」にこそ発揮するリーダーシップ


第2ステージの章男は、リーダーとしての責任の範囲、重さが格段に広がり、深くなった。トヨタはおろか、日本の自動車産業の重責を担うとともに、日本一の企業のトップとして日本経済への積極的な関与が求められる。彼は、その真価が問われる立場に立たされている。つまり、トヨタのトップのみならず、自動車業界さらには日本経済の推進役である。

というのは、コロナ禍に追い打ちをかけるように、自動車産業に風雲急を告げる事態が生じたからである。

菅政権「ガソリン車ゼロ目標」に急発進


菅義偉首相は、10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言した。さらに12月2日、「2030年代半ばをメドにガソリンエンジンのみの新車販売をなくす方向で政府が最終調整」というニュースも流れ、自動車業界は震撼した。

経済産業省がこれまで示していたのは、30年までにハイブリッド車やEV(電気自動車)などの電動車の新車販売に占める割合を50~70%、ガソリン車を30~50%にするという移行シナリオだった。

ところが、菅政権は「脱炭素」化に向けて、「ガソリン車ゼロ目標」へと一気にアクセルを踏み込み、急発進したのだ。

「脱炭素」をテコにコロナ禍で傷ついた経済を修復する動きが世界的に加速しており、日本政府も経済と環境の好循環を生み出す「グリーン成長戦略」を進める。

じつは、テスラの時価総額が6000億ドル(約62兆円)まで高騰するなど、勢いが止まらないのも、「脱炭素」化の流れがあるからだ。

これまで個別の会社にコメントすることを避けてきた章男だが、11月6日の今期第2四半期決算説明会の席で、テスラについて初めて触れた。異例のことだ。

「テスラは、EVで利益を出し、ソフトウェアのアップデートなどでも利益をあげるようなビジネスモデルですね。LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)とか、CO2削減などに取り組んでいる。学ぶことは多々あるんじゃないかと考えています」

そして章男は、日系自動車メーカー7社の時価総額を合わせてもテスラ1社に届かないことに触れ、「現在の株式市場での評価は完全に負けている」としながらも、トヨタは電動車のフルラインナップメーカーとして手を打っており、むしろテスラより「一歩先にいる」と、あえて自信のほどを示してみせた。

「トヨタも、CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)対応について、この3年間で相当、先行投資を続けており、進んでいます。また、ソフトウェアの取り組みを軸にした車両開発のやり方において、ソフト・ウェア・ファーストの考えを始めています」

それより何より、トヨタにあってテスラにないのが、リアルの世界の大きさだ。全世界で走行しているトヨタ車は現在1億台を超える。つまり、これがテスラにない、トヨタの強みになるという。
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文=片山修

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