(前回の記事:副社長廃止、経営の「ジャスト・イン・タイム」を目指す、豊田章男の「深謀」)
豊田章男は、分岐点に立っている。
2009年の社長就任から20年3月期決算までの11年間で、トヨタの完全復活を成し遂げた。これが、第1ステージである。
そして、新型コロナ禍に見舞われる中で第2ステージがスタートした。
第2ステージに足を踏み入れた章男は、どんなリーダーを目指すのか。いかなるリーダーを嘱望されているのか。新生・章男像とは──。
コロナ禍にトヨタが回復できた理由
コロナの直撃を受けて、クルマの生産および販売は一気に縮小するどころか、一時、業務が全面的にストップするなど、経験したことのない事態に陥った。
しかし、リーマン・ショックによる過去最悪の4610億円の大赤字、米国を発端とする大規模リコール問題、東日本大震災、そして超円高など、第1ステージで修羅場をくぐり抜けてきた章男は、平常心を失わなかった。コロナ禍に正面からぶつかっていった。
結果、21年3月期第2四半期決算で、通期営業利益見通し5000億円を、同1兆3000億円に上方修正した。章男は、その成果についてこう語る。
「この6カ月の頑張りもさることながら、これまでの11年間の取り組みにより、トヨタという企業が少しずつ強くなってきたからだと思います」
つまり、第1ステージの11年間にトヨタの企業力は、一段とアップした。とりわけ、従業員が強くなったという。
「最初のうち、確かにひとりぼっち感はありました。笛吹けど、後ろを振り向いてみれば、誰も踊っていなかった。いまは全員とはいわないまでも、一緒に踊ってくれる人が増えています」
章男は、構造改革の成果をそう表現する。
リーマン・ショックや東日本大震災のときには、すべての新規プロジェクトをいったん止めるべく、ブレーキをかけた。しかし、今回のコロナ禍では、仕事を続けた。
工場の稼働休止中も、従業員たちはカイゼン活動を進めた。生産ラインのスピードの4秒短縮の実現は、その一例だ。
また、リーマン・ショック時のトヨタの販売は、市場を4%下回った。コロナ危機では、逆に3%上回るペースで回復した。
「私は、自動車産業が日本経済の牽引役になろうと方向性を示しただけです。すべては、その方向に向かい、各々の現場で働き続けた人の力だと思っています」
裾野の広い自動車産業は、経済波及効果も大きい。雇用は550万人、納税額は15兆円にのぼる。コロナ禍のような有事の際、仕事を継続することによって雇用を守り、利益を上げ、税金を納めることこそが基幹産業の役割だと、章男は自覚をもって語るのだ。
実際、コロナの影響により、2020年の日本の雇用は93万人減ったが、自動車産業に限っていえば、雇用を11万人増やした。