だが、「我々の社会と経済のあらゆる側面を改革する」という表現には、不吉な響きがある。特にそれが、世界経済フォーラムという、世界経済を回している側とされる人々からの発信となればなおさらだ。
さらに言えば彼らの提言は、本音の部分では、自分たちは多少の増税を受け入れる程度の負担増で済ませ、資本主義の連鎖の末端にいる人々に大変革の重荷を引き受けさせようというものだ。
教育や社会の契約、労働条件のリセットについて議論しようと思えば、根本的な社会的課題に触れることになる。米国の社会構造には大幅な変革が必須だと筆者は確信しており、実際に今後は変革が起きるだろう。
民主・共和という党派で分断された現在の政治状況を見れば、変革の必要性は明白だ。どちらの側に属するにせよ、あまりに多くの人が、現行の「社会契約」(その定義はともかく)が、自分たちにとって機能していないと感じている。収入および富の不平等は、現実の大問題だ。
世界経済フォーラム流の「グレート・リセット」が、こうした現状の解決策になるとは思えない。
だが幸い、世界経済フォーラムが大きな成果を挙げることはないだろう。それはむしろ、有り余る富と権力を持つエリートたちが、大衆に救いの手を差し伸べるフリだけをして自らの後ろめたさを和らげる一方で、その過程でさらなる富と権力を手にするという、ありがちな図式の一例だと思われる。