経済・社会

2020.12.12 07:00

政治のオモチャか、東京五輪

11月に来日した中国の王毅外相と、菅義偉首相(Photo by Behrouz Mehri/Anadolu Agency via Getty Images)

11月に来日した中国の王毅外相の発言が世間を騒がせた。王氏は11月24日の日中外相共同記者会見で、「一部の真相が分からない日本漁船が釣魚島(尖閣諸島)周辺に入っている。中国側としてはやむを得ず、必要な反応をしなければならない」と発言。日本の一部メディアやSNSでは、反論しなかった茂木敏充外相を批判する声が上がり、自民党の外交部会と外交調査会が政府に反論を促す決議文を渡す騒ぎになった。

複数の日本政府関係者は、王氏の発言について「保身のためだった」と証言する。中国外務省の報道文は、王氏の問題発言について触れていないため、とっさの判断から出たものだと言えそうだ。

関係者の一人は「記者会見で、茂木外相が先に尖閣諸島について触れたため、慌てたのではないか。中国で2年後に控える大規模な幹部人事に備え、強い態度を見せることで保身を図ったのだろう」と語る。

別の情報関係筋によれば、日本政府は、王氏が数年間、習近平中国国家主席からにらまれたという未確認情報を得ている。同筋は王氏の発言について「日本に甘い顔をすれば、国家主権に関する問題では絶対に譲歩するなと指示している習氏の怒りを買うと考えたのではないか」と語る。

もちろん、日本外務省の対応もお粗末だった。世論への感覚が鈍すぎたということだろう。

外務省は24日夜、共同記者会見後の夕食会も含めたブリーフィングを行ったが、会談の詳細を明らかにすることを嫌がり、日本が中国に強い態度で臨んだ事実をアピールする絶好の機会を逃した。

茂木外相も会見後、周囲に「自分も尖閣諸島について会見で触れた。あそこで再反論したら言い合いになってしまう」「会見の後の夕食会で強く申し入れた」とぼやいて見せたが、もう後の祭りだった。

ただ、全体的にみれば、今回の王氏訪日は総じて、外交で孤立する中国の苦しい立場を浮き彫りにしたとも言える。

日本外務省ホームページによれば、日中外相会談で、日本側は尖閣諸島問題だけではなく、香港や新疆ウイグル地区の問題も取り上げた。「言いたいことはほぼ全て主張した」(外務省幹部)会談になった。

もともと、中国は8月ごろに王氏の訪日を打診。日本側がいったん、「日本の世論を考えてみろ」と言って、やんわり断った経緯がある。中国が無理に頼んで実現した日中外相会談だっただけに、日本も強気の姿勢に出ることができたわけだ。

なかでも外務省ホームページに掲載された外相会談の概要で目についたのが、「(日中)双方は、来夏の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、再来年冬の北京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功のために協力していくことを確認した」という一文だ。
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文=牧野愛博

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