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2021.01.11 10:00

コロナ禍でどうなる空の旅。これが旅客機シートの最新トレンド?


意外と難しい旅客機のシートデザイン。その理由は?


これまでにも、アビオインテリア社のものほどではないが、かなり斬新なデザインのシートが不発に終わった例がいくつかある。ニュージーランド航空が開発した、エコノミーシートを3席連ねた一体型の「スカイカウチ」は台湾のチャイナエアラインの発注しかなく、しかも継続使用はキャンセルされた。

デルタ航空は、3列シートの各席をずらして並列配置したレイアウトで足もとのスペースを広げる「コージー・スイート」を同社のボーイング767と777に設置すると発表したが、その計画が実現されることはなかった。結局このシートの試作品は昨年売りに出された。

(文面翻訳)これが「コージー・スイート」の試作品だ。11月8日(金)に、アトランタのデルタ航空博物館(@dlflightmuseum)の払い下げセールで売りに出される。こんなにたくさん航空関連アイテムを買っても大丈夫かな? でも、なかなかクールだよ。

仮に新しいコンセプトのシートが採用されても、実際の運用は2022年以降になるだろう。不時着や火災の際に乗客の身を守らなければならない旅客機のシートには、強度と耐燃性についての厳格なテストが課せられる。このテストがデザイン開発の大きな壁になっている。

連邦航空局が設けた新たな耐衝基準では、旅客機のシートは16Gの衝撃に耐えなければならない。ジェットコースターは4G、F1マシンですら6Gなのに。合成樹脂製の飛沫防止シールドにしても、衝撃で割れない強度と乗客が頭をぶつけても怪我をしないことの両立を求められる。

飛沫防止シールドって、ほんとうに必要?


また飛沫防止シールドは、航空会社とシート・メーカーが常に削減を目指しているもの、つまり「重量」を増やしてしまうという問題をもたらす。シールドの軽量化にはコストがかかり、シートが数百もある旅客機数百機分ともなれば大変な額になる。

問題はほかにもある。連邦航空局の基準では、緊急時に全乗客が暗闇のなかでも90秒以内に機内から脱出できることが求められている。ところがシールドは迅速な避難の妨げになる可能性がある。頭上から落ちてくる酸素マスクの邪魔になるという現実的な問題もある。おまけに、飛沫はシールドの上からも下からも漏れ出る可能性がある。フェイスシールドのほうが間違いなく効果的だ。

そもそも、旅客機内の換気システムは一般に考えられているよりも性能がいい。普通のエアコンの気流は水平方向に流れるので、途中で拾った飛沫を移動させてしまうが、旅客機の場合は垂直に流れるので気流に接する人数を減らすことができる。

どの航空会社も意外とおろそかにしているのは、シートに取り付けられているテーブルの清掃だ。あれほど小さなテーブルでそんな状態なのに、さらに広いシールドを十分かつ定期的に消毒できるだろうか?

中央のシートを逆向きにすることでプライバシー空間を作ると謳う「ヤヌス」だが、そのせいで前後の乗客は向き合うことになり、目が合ってしまう気まずい瞬間が生み出される。このレイアウトに問題があることは、ブリティッシュ・エアウェイズのビジネスクラスのシートデザイン「インヤン」ですでに実証済みだ。

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ブリティッシュ・エアウェイズが導入していた、ビジネスクラス「クラブワールド」。フルリクライニングしてベッドになる。この写真は2007年11月26日に東京で催された同社のプレゼンテーションの模様。ヒースロー空港の同社専用の新ターミナル「ターミナル5」のオープンを翌年に控えていたこともあって、当時のCEOウィリー・ウォルシュ氏もプロモーションのために来日した。

翻訳・編集=黒木章人/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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