ビジネス

2015.05.03 08:15

IDEO Tokyo×日本企業「協働プロジェクト」の全貌




IDEOの東京オフィスは、2011年に南青山でオープン。多彩な専門領域をもつスタッフが、世界中から東京へ集まる。日本国内の伝統企業やベンチャー、大学とどのように協働プロジェクトを進めているのか、アイデアの秘訣を探る。

2011年にオープンしたIDEOの東京オフィスでは、世界中から集まったスタッフが日本企業とコラボレーションして仕事を進めている。リクルート、DeNA、三菱東京UFJ銀行、資生堂、パナソニック、クレディセゾン、ブリヂストン、産業革新機構、九州大学など業種は多岐にわたる。「新しくできる学校のカリキュラムを考えてほしい」「新しい医療サービスのウェブ体験をデザインしてほしい」「バナナビジネスをイノベートしてほしい」など、IDEO式のデザイン思考であらゆるテーマに挑戦していく。「IDEO Tokyoのミッションは企業や組織のクリエイティビティを解放することでCatalyst for change(変化の触媒)になることです。IDEOがプロジェクトに関わる中で、日本がもともともっている創造性に火花をスパークさせることを目指しています」(マイケル・ペン)

リクルートとDeNA 大きな可能性を秘める コーポレート・ベンチャー

IDEOはリクルートの社内研究機関Media Technology Lab (MTL)ともコラボレーションしている。MTLはいわば社内ベンチャー組織だ。リクルートのスタッフは、誰でも新規ビジネスを立ち上げることができる。アイデアが採用されると、MTLに異動してIDEOのデザイナーを含むメンターたちからアドバイスを受け、プロジェクトを進めることもできる。「スタートアップ立ち上げを検討しているMTLのコアチームのメンバーに声をかけ、IDEOのオフィスに約3カ月間来てもらって一緒に働きました。基礎的なネーミングからサービスのコンセプト、ブランディングまで一緒にデザインした新しいウェブサービスは、近々ローンチされます」(ダヴィデ・アニェッリ)
1999年に設立されたDeNAはまだ歴史が浅い分、伝統企業に比べてチャレンジングな事業に挑戦できる。14年8月、同社は遺伝子検査サービスMYCODE(マイコード)をスタートさせた。唾液を郵送するだけで、ガンや生活習慣病などのリスクや体質などを遺伝子レベルで統計的に知ることができるサービスだ。サービス開始にあたり準備段階からかかわったのがIDEOだ。「遺伝子検査サービス自体も新しい市場であったため、サービス設計からパッケージのデザインまで、あらゆる面で新しさが求められていました。IDEO式の仕事のやり方で非常に参考になったのは、彼らの付箋紙とスチレンボードを中心とした、アイデアの発散と収束のプロセスです。答えを簡単に引き出せないときこそ、こういった自由に発想できる環境が必要なのだと思いました」(DeNAライフサイエンス・泉雄介グループリーダー)
「アントレプレナー・マインドセットを根底から一緒に共有できるところが、IDEOと企業の協働プロジェクトの特徴です。日本でも企業内の新規事業が活発になってきました。リクルートやDeNAのようなコーポレート・ベンチャーの動きには、今後大きな可能性があると期待しています」(ペン)

<中略>

今までに見たことのない“アイデアの種”を探しに出かける旅へ

IDEOのデザインリサーチは「検証のためのリサーチ」ではなく「発想のためのリサーチ」だと野々村は指摘する。
「市場調査によってデータを検証する(research)というよりは、デザインのためのインスピレーションを探してつかみ取りにいく(search)。インスピレーションをsearchし、アイデアの解像度が上がるにつれてさらにsearchを続けていく。そのうえでプロトタイプを人に見せ、人々の心に何が刺さっているのか、何が刺さっていないのかを確かめながらデザインをブラッシュアップしていくのです」(ジュール)
全世界のIDEOスタッフが価値を共有するキーワードの中に、「Embrace Ambiguity」(不透明で不確実な状況を楽しむ)という言葉がある。
「クライアント企業と仕事をしていると『落としどころはどこですか』と聞かれることがよくあります。落としどころがわかるのであれば、そのプロジェクトにはすでに答えが見つかっているわけです。答えがわからないプロジェクトにEmbrace Ambiguityの精神で挑戦するからこそ、大きなイノベーションの機会につながります」(野々村)
年功序列・終身雇用の働き方が変わる中、社内ベンチャー立ち上げを推奨する日本企業も増えてきた。
「『なぜ自分はこの会社で働くのか』と真剣に考える若い社員が増え、日本企業からボトムアップのエネルギーが生まれるようになりました。技術力が高い日本は1を100にもっていく“1 to 100”に圧倒的な強みを発揮しますが、ゼロから新しいイノベーションを生み出す“0 to 1”のためにはアントレプレナー・マインドセットとデザイン思考へとシフトする必要があります」(アニェッリ) 
トヨタ自動車は「カイカク」「カイゼン」によって戦後日本にイノベーションを生み出し、世界に車を輸出するナショナルブランドへと成長した。かつての日本には、誰もがベンチャー精神を発揮して無から有を生み出す時代があったわけだ。“0 to 1”を生み出すための“アイデアの種”を探しに出かけるIDEOの旅に参加したとき、日本人は今まで出合ったことのない新しい風景を目にすることができるのかもしれない。

荒井香織 = 文 西村裕介 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.11 2015年6月号(2015/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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