コロナ禍で進む病院のIoT導入、欧州委員会が特別プロジェクト始動

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欧州委員会(EC)は11月初旬に、IoT(モノのインターネット)を活用して医療体制の拡充を目指すプロジェクトを始動し、800万ユーロ(約10億円)の予算を投入すると宣言した。

「IntellIoT」と呼ばれるこのプロジェクトは、シーメンスやフィリップス、ユーロコムなどの企業に加え、デンマークのオールボー大学や、フィンランドのオウル大学、スイスのザンクトガレン大学を含む13の企業や機関が参加するコンソーシアムの主導で実施される。

これらの企業や大学は今後の3年間で、大量の医療データを分析しつつ自律的な健康モニタリングや介入を行うことを目的とした、様々な実験を重ねていく。プロジェクトのゴールは、病院の貴重なリソースを節約すると同時に、患者と医師との間のリスクを伴う、対面での接触を減らすことにある。

取り組みの一例としては、ギリシャのイラクリオン大学総合病院(University General Hospital of Heraklion)が、ヘルスケア企業のフィリップスとの提携で実施するものがあげられる。彼らは、医療機器やセンサーで使用可能なAI(人工知能)アルゴリズムを開発し、診断プロセスを加速させると同時に、診断の精度を向上させようとしている。

さらに、患者と医療従事者の間の仲介役となり、遠隔での患者の管理を可能にするIoTベースのソリューションを生み出そうとしている。

「パンデミックの初期の頃は、患者や医師たち、そして行政の担当者らが必要なデータの入手に苦慮していた。信頼性が高く、安全なデータ収集を可能にするIoTソリューションは、将来のヘルスケアにおける意思決定と、サービス向上に役立つはずだ」と、同大学の医師は話した。

IntellIoTプロジェクトは、IoTだけでなく5Gや分散コンピューティング、AR(拡張現実)など、様々な先端テクノロジーを医療現場に導入することを目指している。

「パンデミックの発生を受けて、これまでのヘルスケアシステムの在り方を見直す必要が生じた」と、欧州委員会でIoTテクノロジーを担当するロルフ・リーメンシュナイダーは述べた。「ヘルスケア分野でIoTに求められるは、様々なデバイスを連携させることのみではなく、インテリジェンスや自律性、さらに高度なセキュリティを加えていくことだ」

中国武漢の病院が先行モデルに


医療現場にIoTを導入する試みは、世界各地で行われている。パンデミックの震源地となった中国の病院では、今年の第1四半期から、遠隔医療やロボットを本格的に活用する試みが始動した。

武漢で3月に開設された病院では、様々なロボットが患者のケアを行ない、IoTデバイスが活用され、入院患者は常に5G通信に接続された体温計でスクリーニングを受けていた。

さらに、スマートブレスレットなどで常にデータを収集し、心拍数や血中酸素濃度などのバイタルサインがクラウドで管理されていた。

このようなテクノロジーの導入はまだ初期段階ではあるが、既に世界の複数の現場で、病院の業務負担を軽減し、患者を感染症から守るために役立つことが確認されている。IoTが医療分野で今後どの程度普及するかはまだ未知数だが、新型コロナウイルスの脅威は当面の間、残り続けることが予測され、その間に、様々な病院で導入が進む可能性は非常に高い。

編集=上田裕資

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