第二次世界大戦のアメリカの戦死者数は、民間を合わせて約41万8000人であった。コロナ禍での予測死者数は、数だけで言えば戦時下にあるのと等しい。
CNNによれば、27万人という死者数は、年平均の交通事故死者数の約10倍を超え、インフルエンザによる死者数や自殺者の約5倍に達しているという。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の統計では、年間平均67万595人が心臓疾患で、同じく61万2725人がガンで死亡しているという現実もある。
映画「ソハの地下道」を思う
私の住むニューヨークでも、11月13日から、再びレストラン、バー、フィットネスジムなどの営業は午後10時までと制限を強化している。加えて、自宅も含めた個人的な集まりも10人以下と、いままでにない措置を打ち出した。これはクリスマスから年末を見据えたものだと思われる。
ニューヨークでは気温も下がり、公園などの樹木からも葉が落ちて、春先の第一波が始まった時と同じ風景となっている。そんななかで、アメリカの重要な祝日である11月26日の感謝祭のために、例年の6割減とはいえ、1週間のうちに約940万人が飛行機で、約5000万人が車も含めた移動をしたと言われる。
3月にコロナ禍での外出禁止令が出てから、「ソハの地下道(In Darkness)」という2011年に製作された映画が、いつも私の念頭をかすめている。
第二次世界大戦中に、ナチス支配下のポーランド(現ウクライナ領)で、地下水道に隠れたユダヤの人たちに命がけで食料を届け匿い抜いたソハという下水道修理職人の実話を基にした映画である。
14カ月も外の空気を吸わず、ジメジメとした地下水道に隠れて生き延びた人たち。いつ生きて再び地上に出られるとも知れないまま、日々祈りと共に地下生活を続けた人たち。
外出禁止令が出て自宅でずっと過ごしていても、食料の買い出しもでき、寝るところも確保され、何といってもインターネットで外部情報のやり取りができる環境であれば、14カ月も地下生活を続けていた人たちよりは、まだ「快適」かもしれないと思うのである。
ワクチンが開発されて実際に接種が開始され、経済活動が平常に戻るまでにあと1年以上かかろうとも、何とかなるだろうと、いつもこの映画の生き延びた人たちのことを思い起こして、勇気をもらってきた。彼らも私たちも「普通の平和な生活」に戻りたいという思いは同じなのだ。
わずかな光明も見えてきた。ワクチン治験結果が良好であり、12月半ばには緊急接種に踏み切るとのニュースも流れ、闇夜のトンネルの先に少し灯りが灯ったようだ。1年足らずでここまで漕ぎ着けたワクチン開発に携わった人々の奮闘ぶりには、感謝しかない。
一般接種が始まるまでにはまだ時間がかかりそうだが、ゴールが近いことはおぼろげながら見えてきた。とはいえ、ゴールが目前で遠のくこともまだあり得る。目前でゴールが遠のくと心理的に失望感も大きく、ガックリ来るのが人間である。来年にはワクチンの接種が進むだろうと楽観的に考えつつも、それもそのうちと余りゴール設定を明確にしないで淡々と待つ日々が望ましい。