「東京にいる投資家みたいに、時価総額1000億円を超えるような大きな可能性のある会社を輩出したいとずっと思っていました。そういう意味では、今回、ひとつの成功事例ができました」
そう語るのは、福岡県を拠点に活動するジャフコ グループ九州支社・支社長の山形修功だ。山形が投資したアイキューブドシステムズは2020年7月、東証マザーズに上場。初日は買い気配で値がつかず、2日目についた初値は公開価格を3倍上回る9430円、時価総額は486億7200万円を記録した。
4年目となる「日本版MIDAS LIST」だが、地方で活動する投資家が1位を獲得したのは初めてだ。山形に今回の投資案件の率直な感想を求めると、開口一番に「波瀾万丈。その一言に尽きますね」とこれまでの苦労をにじませた。
佐々木勉が創業したアイキューブドシステムズは、モバイルデバイス管理(MDM)サービスを手がける福岡のITベンチャーだ。設立は2001年。もともとはソフトウェアの受託開発が主業で、08年ごろにモバイル・クラウド領域に軸をシフトし始めた。企業がモバイル端末とクラウドをつないで利用する時代が来ると確信していた山形は、地方から最先端領域にかじを切ろうとする同社に可能性を感じ、10年に最初の投資を検討。しかし、当時はリーマン・ショックの影響でスタートアップ投資全般が停滞、アイキューブドシステムズの開発するプロダクトも現在の主力製品とは異なっていた。「あのとき、投資できていたらといまでも思いますが、結局、投資委員会を通すことはできませんでした」。
山形は諦めなかった。同社経営陣と密にコミュニケーションを続け、現在の主要サービス「CLOMO MDM」が軌道に乗り始めた14年、ついに投資にこぎつけた。プロダクトが苦戦したり、組織が問題を抱えたりと、その後も「決して順風満帆とはいかなかった」が、投資家として経営陣を下支えして伴走。サービス品質向上や販売チャネル開拓、カスタマーサクセスへの注力などによって、アイキューブドシステムズは着実に成長し、20年、新規上場が承認された。
ただ、ここでも難関が待ち構えていた。新型コロナウイルスの猛威である。世界的な感染流行を受けて、株式市場は混乱。長期の市場低迷を危惧した山形は、予定していた4月の上場実現を熱望したが、3月19日、延期が決議される。その後、再度上場の承認が下りるも、需要減退を懸念して、もとの計画よりも公開規模を大幅に縮小することになった。
しかし、これが思いがけない結果をもたらした。株式市場は想定以上の急回復をみせ、投資意欲が旺盛に。需給ギャップが生まれて初値が大きく膨らむ劇的なマーケットデビューとなったのだ。