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2020.10.29 17:30

資本主義の先へ。世界を把握する「直観的方法」とは


──同著では、物理学の例えや鉄道のモデルなどを使って、難解な現代経済学の理論を直観的に理解させる解説が印象的ですが、資本主義の根本的な問題の指摘も重要です。

そもそも、資本主義そのものがさきほどの「部分の総和が全体と一致する」ことを前提に設計されています。「個人の短期的願望」を全部合わせれば、「社会の長期的願望」になるはずだと。

現代のGAFAはそれを極限まで進めている企業です。国や社会を飛び越えて、世界中の個人個人の短期的願望をなるべく速いスピードで直接実現できるようにし、世界をその集合体にしていく。それがGAFAのつくっているプラットフォームだと思います。

でも、実はそれは正しくなかった、部分の総和が全体と一致しないとなると、その設計図自体がひっくり返る。極端に言えば人類の歴史が大きく動くはずです。普通に考えれば、大きな混乱が今後、起きることになるでしょう。しかしそれを、ポジティブに考えることもできます。

GAFAのような巨大ITプラットフォームの市場経済が極限まで進むと、個人の願望は事前に予測されて、企業の思うように行動も変容される。個人個人が、自分の小さい世界に引きこもり、長期的な願望を持とうとしなくなる。「今日、とりあえず快く過ごせればそれでいい」とみんなが思っていて、それで社会が完結する。そうなると人々が参加するべき大きな物語がだんだんなくなり、歴史そのものが消失してしまうでしょう。これは人類の歴史の死です。

しかし、そもそもの設計図が誤りならば、そのような未来に突き進むことは必然や宿命ではありません。歴史の死から人類全体を引き戻し、再建することができるのです。この動きに参加して「人類の次の歴史」を築く、新たな大きい物語を描くことが可能になるわけです。「将来、何が起こるのか」ではなく、「何を起こすべきか」を考えるべきです。

──次の著作のテーマを教えてください。

次は、「人工知能が無限に発達したときに、人間の仕事や存在価値が残るのかどうか」という問いに答えたいと思っています。人間の天才的直観力は、無限に進歩した人工知能に最後に勝てるのかどうかを数学的に証明するというものです。

これは人類にとって重要な問いです。もし結局、人間が何をやっても人工知能に負けてしまうなら、虚無感しか生まれません。そのような世界から抜け出し、人間の存在価値や尊厳を立て直すには、「人工知能が無限に発達しても人間が勝てる領域が最後まで残る」ことを数学的に示す、ということを誰かがやらないといけません。

──今後の日本のビジネス戦略において、何が重要になるでしょうか。

長沼:日本のビジネスは、今後2種類の戦略が必要になるでしょう。1つは、資本主義がこのまま続き、米中の経済覇権の争いに巻き込まれるストーリーを前提にした戦略。もう一方は、資本主義のドグマそのものが崩れ、新しい道に進むというストーリーのための戦略。この2つに対応できるような戦略と戦力が必要です。前者だけでは資金とスピードの勝負なので日本に勝ち目はありません。しかしパラダイムシフトが起きれば、勝てる余地が出てきます。その2つの間で柔軟な視点から考えることが重要です。


長沼伸一郎◎1961年、東京都生まれ。1983年、早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業。1985年に同大学院中退。1987年、『物理数学の直観的方法』を自費出版。「パスファインダー物理学チーム」代表。

文=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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