世界は100年に一度の感染症の大流行に見舞われ、大量失業に格差の拡大、暴徒化するデモ隊のニュースに政治家の汚職、ポピュリスト政治家の妄言、混乱に乗じた市民の監視強化──。世界はますます悪い方向に向かっていると、人類の未来を悲観的に感じる人は少なくないだろう。
しかし、オランダの気鋭の歴史学者、ルトガー・ブレグマンは「悲観主義は現実的ではない。現実的に考えよう」と説く。この希望ある現実主義の考え方が世界で注目を集めている。
歴史学者でジャーナリストでもあるブレグマンは、徹底的に史実と向き合う現実主義者だ。著書『隷属なき道』では、ユニバーサル・ベーシック・インカムについて、歴史的な実例をもとに検証。週15時間労働という「夢」のような理想の世界を実現するための現実的な方法を論じ、世界中の読者、特に若者世代の心を掴んだ。
ブレグマンを一躍時の人にしたのが2019年に開かれた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)だ。各国首脳、世界中の大企業や著名な学者、ジャーナリストが一堂に会すなか、不平等と格差是正に関するセッションに招かれたブレグマンは世界の富裕層を相手に「誰も話そうとしないが、問題は租税回避。富裕層が公平な税金を払っていないことだ。(解決策は)税金、税金、税金。それ以外はクソだ」と言い放ち、その動画が世界に拡散。欧米の大手メディアでも社会の欺瞞を痛烈に批判する発言が話題になった。彼の発言や著作には、社会に忖度しない、史実に忠実で現実的な姿勢が通底している。
そんな世界が注目する彼の新作、「Humankind」は、さまざまな史実から人類の本質に迫った。ブレグマンは米ジャーナリスト、アレクサンダー・ヘフナーのインタビューにこう語っている。
「これは、過去20年ほどにわたって、人類学、考古学、社会学、心理学などさまざまな学問分野において、静かに起きている科学的進歩についての話だ。人類の本質に対する見方は、冷笑的なものから希望的なものへと変化している。人類は天使ではないが、大多数は本質的にまともで優しい。そのことを点と点で結んで示そうとした」
パンデミックの最中、買い占めや略奪、モラル違反の人々の行動は大きく報じられたが、多くの人々は協力して助け合った、と実感している読者は少なくないだろう。