もっと意味のある存在になるために
3年目から都内大学病院の精神科医局員となり、精神科単科病院に赴任。その傍ら、念願だった産業医としての活動を都内で開始した。「まずは、しんどい人をしっかりサポートするために、ひとりあたり1時間の面談をすることにしました」というのは、産業医としての尾林の原点であり、トラウマでもある過去を克服する作業でもあった。
さらに、「のらりくらりやっているなら産業医なんていらない。従来のやり方ではあまり存在意義がない」という思いから、踏み込んだ取り組みもしている。メンタル不調者と面談するのでなく、“全員”と面談するというものだ。「従業員とリレーションを築いて、不調のサインを感じとれるハブをいっぱい作っておく」という予防的観点だという。
また、現場を俯瞰的に見る産業医の視点は、チームワークの改善や人材配置のディレクションにも活きている。例えば、A・B・Cという仕事があり、Aだけに従事して病んでしまいそうな場合、BやCにも関与させて違う風を入れてみるとうまく回ったりするのだという。そうして組織を動かしていくのは、管理職や経営者に近い仕事と言えるかもしれない。
産業医が関与することで、どれだけ企業価値に貢献できるか。その指標は、休職者がゼロになることなのか、今はまだ示すのは難しいかもしれないが、「こうした取り組みが横展開されていき、産業医がより意義あるものになっていけば」と尾林は考えている。
精神科医、産業医として臨床を続けて8年目の2020年、尾林が開業したクリニックは、「VISION PARTNER」という。まるでメンタルクリニックっぽくないネーミングだが、なにかと「ビジョン」が求められるこの時勢にとてもしっくりくる。そこに込めた思いは、別記事で詳しく紹介する。