菅新政権は「買い」か? 金融市場から見た「期待・影響・死角」

アベノミクス継承を訴える菅新政権をマーケットはどう見るか(Getty Images)

9月16日に自民党総裁の菅義偉氏が首相に就任し、新政権が誕生した。7年8カ月続いた安倍晋三政権の路線を引き継ぐ考えを示し、20人の内閣の顔ぶれも明らかになった。

安倍政権が誕生した際には「アベノミクス」への期待感が株式市場全体を盛り上げたが、「国民のために働く内閣」を掲げて規制改革への意欲を示す菅政権の場合、果たしてどうなるのだろうか。

菅政権が日本の経済に与える影響について、市場関係者に話を聞いた。

菅政権の「規制改革」に期待 注目は河野氏


まず、アベノミクス路線の維持を訴え、規制改革にも意欲を示す菅首相の基本姿勢について市場関係者はどのようにみているのだろうか。

マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆氏は、菅政権はアベノミクス以上に「ビジネス・フレンドリーな政権となりそうだ」と見込んでいる。

新総裁に選出された際のあいさつのなかで「役所の縦割り、既得権益、あしき前例を打破して、規制改革を進めていく」と訴えた菅首相の発言には「企業の健全な競争を促し日本経済の新陳代謝・活力を高めようという狙いが見える」と分析。安倍政権時代に積み残されていた規制改革の進展に期待ができると評価した。

一方、第一生命経済研究所の首席エコノミスト永濱利廣氏は、アベノミクスの「現行路線維持は市場にとっては安心材料である」とした上で、将来的な消費増税の必要性の意志を示したことに対しては、「拙速な増税には若干の懸念がある」と指摘する。

菅氏は10日夜、テレビ出演した際に、「消費税は将来的に10%より引き上げる必要はあるか」と問われ、「将来的なことを考えたら、行政改革は徹底しておこなったうえで、国民にお願いをして消費税は引き上げざるを得ない」と答えていた。

財政健全化に向けた消費増税が拙速な判断とならないためには、まずは菅政権が意気込みをみせる行政改革による歳出削減が1つの争点となるだろう。今回の組閣において行政改革・規制改革相には河野太郎氏が就任したが、この人事は市場関係者の注目を集めている。

コモンズ投信の伊井哲朗代表取締役社長は「霞が関から手強いといわれてきた河野氏が行政改革担当大臣に就任されたことには本気度が感じられる」と改革が進むことへの期待感を示した。

またソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部長の尾河眞樹氏も、菅政権の「縦割り行政の打破」に期待する。河野氏が「今までの行政改革は、コストを削減したり、そぎ落としたりするものだったが、国民や社会から見て価値を創造する規制改革をやらないといけない」と発言したことに触れ、「目に見える改革」を推進してほしいと述べた。

また菅政権誕生とともに話題になっている「デジタル庁」新設については、市場関係者はどのようにみているのだろうか。平井卓也デジタル改革・IT担当相は17日未明、「来年の通常国会までに法整備を一気にやらなければならない」と、新設に向けて急ぐ考えを示している。

広木氏は「デジタル庁」が新設されれば海外投資家のあいだに「日本は変わる」という認識が広まり、海外からの投資マネーの流入につながるだろうと指摘する。

尾河氏は「安倍政権でもDXの促進には力を入れてきたが、コロナ禍に政府のデジタル化が進んでいなかったことが浮き彫りになった」とした上で、少子高齢化社会では生産性の向上が必須であるという観点から、デジタル化の促進に対して期待感を示した。「デジタル庁」新設は市場関係者からも好意的に受け入れられているようだ。
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文=渡邊雄介、編集=督あかり

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