「見えない、聞こえない」体験の価値とは ダイアログ・ミュージアムの挑戦

声を出さずに、手の形で思いを伝える世界が体験できる「手のダンス」


null
ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事の志村季世恵さん

さらに、志村さんたちが考えたもうひとつの挑戦が、対話のプロフェッショナルを養成する「ダイアログ・アテンドスクール」だ。アテンドとしての接遇マナーやファシリテーションスキルの習得はもちろん、経営者や経済の専門家を講師に招き、ビジネス感覚を育む。

現在、日本ではおよそ3人に1人がなんらかの障害を持っているか、高齢者に属するといわれる。「見えない、聞こえない」がけっして他人事でなくなる人生100年時代に、これらの人たちが社会に参画し、能力を発揮できることは、とても重要なこととなる。

コロナ禍だから気づけたこと


ダイアログ・ミュージアムは、当初、東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、7月にオープンする予定だったが、コロナ禍により8月23日に延期。実は用意していたプログラムの変更も余儀なくされた。

現在、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、暗闇での「密」を避けるために、ほんのりと明かりを灯し「ダイアログ・イン・ザ・ライト」として開催されている。秋からスタートする予定だった3つ目のプログラム、高齢者がアテンドする「ダイアログ・ウィズ・タイム」も来年以降の開催となった。

しかし、新たな発見もあったという。感情や意思表示の大切さだ。志村代表は語る。

「耳の聴こえない人たちに、よく言われるんです。『表情をつくることを、サボっているんじゃないの?』って。いま私たちはマスクをしているので、あまり目を合わせる機会がなくなって、接客業の人たちですら笑顔がなくなってしまっているかもしれない。でも、感染防止のために大切なものまでなくしてしまうのはもったいないと教えられました」。

プログラムの1つ、「ダイアログ・イン・サイレンス」では、言葉を発しないからこそ、マスク越しでもわかる豊かな表情やジェスチャーの大切さに気づく。また、「ダイアログ・イン・ザ・ライト」では、ほの暗いなかで、年齢や性別、容姿、障害、肩書きも全て意味を失うからこそ、対等な関係で自己開示ができる。コロナ禍だからこそ生まれた新たな発見は、ダイアログ・ミュージアムの可能性を広げたにちがいない。

誰もが不安を抱えるいまだからこそ、ダイアログ・ミュージアムの描く、新しいかたちのソーシャルエンターテインメントに寄り添ってみたいと思った。

連載:気になるニュースの現場から
過去記事はこちら>>

文=丸山裕理

ForbesBrandVoice

人気記事