神経放射線学者で、スタンフォード大学フーバー研究所のフェローであるアトラスは、できるだけ広くかつ速やかにウイルスを蔓延させ、人口全体で集団免疫を獲得するべきだと考えているようだ。ウイルス拡大を抑制するためにビジネスを停止させたり、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の確保やマスク着用を求めたりすることの逆だと考えてもらえばいい。
アトラスの戦略は、体の弱い高齢者に悲惨な影響をもたらす可能性がある。体力のない高齢者は、新型コロナウイルスに感染した場合、重症化したり死亡したりするリスクがもっとも高い人たちだ。米国では2020年8月26日現在、新型コロナウイルス感染症で死亡した人のほぼ80%が65歳以上、57%が75歳以上となっている。
高齢者へのリスク
集団免疫という考え方を支持するアトラスをはじめとする人々は、それが高齢者にどのようなリスクを及ぼすのかを十分に認識している。アトラスの対応策では、引き続き高齢者を一般の人から隔離することになる。実質的には、多くの高齢者に対して、すでに6カ月近く前から行われている隔離を延長するわけだ。ただしこうした戦略は、社会的に孤立するとどのような健康リスクがあるかという、十分に立証されている懸念を蔑ろにしている。
アトラスの計画によると、一般の人と、高齢者介護施設の入居者ならびにほかの高リスクの人たちの接触は「厳しく規制される」という。双方が接触する際には、事前に検査を受け、マスクを着用する必要がある。
高齢者長期療養施設における感染者数と死亡者数は、夏のあいだに一旦減少したが、現在再び増加を始めている。多くの公衆衛生当局者は、秋に入ってさらに急増することを危惧している。
感染者が増えれば隔離は継続
こうした状況を考えると、集団免疫戦略を採用した場合には、高齢者は次のような3つの重大なリスクにさらされる。
1つめのリスクは、パンデミック発生から6カ月が経過したというのに、高齢者の長期療養施設はいまだに、迅速かつ正確に検査を行うためのキットを入手するのに苦労していることだ。米政府は、一部の高齢者介護施設に検査キットの配布を開始し、残りの介護施設と介護付き高齢者住宅への配布も約束している。
しかし、政府が配布しているのは、現場で即時実施が可能な抗原検査だ。このタイプは安価で(およそ5ドル)、15分ほどで結果が出る。一般的に使われているのは、研究機関で判定が行われるPCR検査だが、時間がかかり、コストも高い。抗原検査の精度はPCR検査と比べて劣ると考えられている。感染があっという間に広まってしまう高齢者長期療養施設では、偽陰性がひとつ出ただけで、悲劇的な事態になりかねない。