ベイリー・ギフォードが最初に手掛けた取引の一つは、マレー半島のゴム栽培園への融資だった。ヘンリー・フォードの先駆的なT型フォードが世界に革命を起こすと考えたためだ。
第一次世界大戦後は米国を魅力的な“新興市場”と判断し、「ユニオン・パシフィック」や「アッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ」といった鉄道会社の銘柄でポジションを築き、最終的には資産の20%を米国に投資するに至った。60年代には、当時新興国だった日本にもいち早く投資している。
2000年にインターネット株のバブルがはじけると不振に陥ったが、投資家がアマゾンなどの企業から離れていくなか、ベイリー・ギフォードはジェフ・ベゾスの描く構想を支持し続けた。そのアマゾンの驚異的な回復と成功が、ベイリー・ギフォードの「まずは楽観的に考え、後で批判的になればよい」というアプローチを生んだのだ。タイミングも完璧だった。アマゾンやグーグル、マイクロソフトといったテクノロジー系の巨大企業がS&P500を支えるようになっていたからだ。
アンダーソンは語る。
「大企業はより優秀により強くなり、その成長につれてリターンも、小さくなるどころか大きくなっていることに気付きました」
アンダーソンと共同で主要ファンドの一部を運用するトム・スレーター(42)も言う。
「本当に長期的に市場をけん引する類まれな企業を1社か2社だけでもつかむことができれば、失敗の損失を補填することができるのです」
12年にはベイリー・ギフォードは、クラウドコンピューティングやアジアのテック系リーダーのアリババやテンセントといった最新トレンドの銘柄を手に入れていた。
もちろん、人間主導の投資は大きな空振りも招く。例えば、ブラジルの富豪アイク・バティスタの石油企業「OGX」、風力発電機の「べスタス・ウィンド・システムズ」、個人向けオンライン融資プラットフォームの「レンディング・クラブ」、電気自動車メーカーの「ニーオ」など。不振の「エアビーアンドビー」やスーツケースメーカーの「アウェイ」にも出資してきた。
しかし、リターンが100倍になったアマゾン、16倍になった「テスラ」、17倍になった南アフリカの複合企業でテンセントの株式の31%を保有する「ナスパーズ」などの勝ち銘柄が、十分過ぎるほど負け銘柄を補っているのだ。
ベイリー・ギフォードの資本のうち、約350億ドルは中国に投資されている。保有株数が多い企業には、急成長中のデリバリーサービス「美団点評(メイトゥアン・ディエンピン)」、新進のEコマースプラットフォーム「ピンドゥオドゥオ」などがある。また、欧州で食材キット宅配サービスの「ハローフレッシュ」の株式を保有しているほか、ラテンアメリカ版のアマゾン「メルカドリブレ」にも出資している。
ロンドン証券取引所に上場しているスコティッシュ・モーゲージ・インベストメント・トラストが、ベイリー・ギフォードが保有する未公開株の大部分を抱えており、金融サービスの「ストライプ」、TikTokで知られる中国企業の「バイトダンス」、生物工学の草分けの「ギンコ・バイオワークス」、そしてビル・ゲイツの支援を受け、トランプ大統領が買収したがったとされる新型コロナウイルスのワクチン開発企業の「キュアバック」などの銘柄がポートフォリオに名を連ねている。