マルチラテラリズムは勝利するか? 国連のコロナ対策を指揮、岡井朝子・UNDP危機局長

岡井朝子・国連事務次長補兼国連開発計画(UNDP)危機局長


──UNDPは、国連機関のなかでSDGsの達成に向けた中核的な役割を担っていますが、新型コロナウイルスの発生でどのような影響があったのでしょうか。

SDGsの達成期限である2030年に向けて、今年から行動を加速化させる「行動の10年」が始まったところでした。そういった時に今回のパンデミックが発生し、脆弱国家のSDGs達成はますます難しくなりました。

新型コロナウイルスは、各国の社会経済、政治、安全保障に想像以上に大きなインパクトを与えています。背景には自然との調和の問題や、気候変動もありますし、問題は複層化し、さらに「社会のひずみの増幅」も懸念されています。危機は脆弱国家だけでなく、先進諸国も含めた全ての国が直面することになりました。

UNDPは3月に緊急の総合対策を発表し、自己資金を再構築して130カ国に予算を分配し、その国にあった対処方法を国事務所と政府、現場にいるほかのパートナー、UNの機関などと相談して、今後の道筋づくりに率先して取り組み始めました。新型コロナ流行に備えた事前準備、流行した場合の対応、その後の復興のための体制づくりの3つの支援が柱で、防護服や呼吸器、医薬品の調達支援といた医療保健システム強化、さらに外出規制を考慮した政府のIT化の推進、誹謗中傷やフェイクニュースといったミスインフォメーションへの対策などの総合的な危機管理対策。そのうえで社会経済への影響を調査・分析し、一番脆弱な人に支援が届くように計画を立案するといったものです。

そうこうするうちに先進国も含めた世界の社会経済へのインパクトが前代未聞のレベルとなることがわかり、国連全体として社会経済的影響の軽減のための枠組みが出来、UNDPはそのリード役となりました。6月にはUNDPの総合対策第二弾として、よりよい復興を目指して、第一弾の対策をより広げた支援策を打ち出しました。

新型コロナウイルスは社会経済に深刻な影響を与えていますが、SDGs達成が新型コロナウイルスで後退してしまうのではなく、よりよく復興しなくてはなりません。そもそも地球の環境破壊などがパンデミック発生の根源にあり、この流行が、すでに社会の根底にある格差や不平等をより増幅させているのですから、今、目の前の対応だけでなく、ここからより良い方へ抜け出す方法が必要です。

UNDPとして特に注力しているのが4つの分野です。1つは政府と市民が信頼関係を持てる社会をつくること。2つ目は、難民やインフォーマルセクターで働く人などを含めた包摂的な社会保障。3つ目は、グリーンな復興。環境や持続可能性に配慮した新しい雇用の創出が必要です。4つ目は、デジタルとイノベーション。デジタルでつながることやイノベーションを通じて、格差や貧困の解消の実証を目指します。私たちの危機局は、それを実践するための政策や人材を現場に送り込む役割を担っているため、日夜、知恵を搾り出し、実践、検証を繰り返し、成功事例の普及など、リアルタイムで学びながらの創造をやっています。

これらは、UNDPだけではできることではありません。ドナーからの支援も必要ですし、他の国連機関や国際開発金融機関、NGOだけでなく、民間セクターや地方自治体などのローカル・アクターともパートナーシップを広げています。例えば、設立から1年を迎えたアクセラレータ・ラボは、イノベーションによって地域に適した課題解決策を生み出し、国際的なつながりを使って一気にスケールアップしようとする取り組みで、日本も支援に加わることになりました。新型コロナなどの社会課題を解決しながらビジネスもできる、ウィン・ウィンの実例を作っていきたいと考えています。

また、一つの政策で複数の目標が達成できるような、新しい総合政策の実行には、データの収集・分析やイノベーションの活用、資金の確保も欠かせません。先細りのODA(政府開発援助)に代わる、ESG投資や民間資金の動員も積極的にやっています。
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構成=成相通子

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