経済・社会

2020.08.23 11:00

マルチラテラリズムは勝利するか? 国連のコロナ対策を指揮、岡井朝子・UNDP危機局長


──新型コロナウイルスの対応で、WHO(世界保健機関)の中立性が問われるなど、国連機関への期待の変化や厳しい見方も出ています。世界の分断が進むなかで、どのように連帯をつくっていけると思いますか。

この未曾有の危機は国際協調なしに乗り切れません。分断の先に地球の未来はないと思います。だからこそ、本質論に立ち返り、今まで様々な理由からできなかったこともできるような社会に変える機会にすべきと思います。多くの人が「この危機を機会に変えよう」と言っていますが、国際連帯と協調がよりよい世界をもたらすことを実例をもって示し、賛同者を増やしていくことが重要と考えます。日本をはじめとした心ある国々が、引き続き国連、ひいてはマルチラテラリズム(多国間主義)を支持し、国際連帯の輪を広げていってほしいと思います。

「平和でそれぞれが自分の能力をフルに発揮できる社会」は単なるきれいごとでしょうか。日本でも正規社員と派遣社員の賃金格差や社会保障の違いがあります。構造的な差別が世代を超えて定着している国もあります。何も変えられないと諦めてしまっていいのでしょうか。

もし今アクションを起こさなかったら、ますます事態は悪くなるだけです。ジョージ・フロイドさんの死亡をきっかけにしたブラック・ライブズ・マター運動は世界に広がりました。気候変動ではグレタ・トゥンベリさんの訴えに若者が共感し、立ち上がりました。#MeToo運動も社会が大きく変容する機会になりました。

日本では声をあげる運動に参加することが苦手な人が多いかもしれませんが、声をあげる人は増えていると感じます。そういう声が一人一人の中からでてきて、全世界に共感を呼んでつながることができたら、それはマルチラテラリズムの勝利だと思うのです。

もう一回原点に戻って、作りたい社会や夢を語りあう。これを機会にいい方向に持っていこうという論調が出て来て大きくなれば、考えるのが楽しくなるはずです。

──最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

若い人には、夢を追うのは悪いことではないと伝えたいです。未来の創造はあなたの手にある。あと、常に新しいやり方を考えることができる力は誰にとっても必要です。そうでないと、時代に遅れてしまう。タイムリーに自分のなかのシステム更新をできるようにしないといけませんね。

UNDPでは、若者によるソーシャルイノベーションと社会起業を支援するプログラム、「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」を実施しています。18歳から35歳までの若者による、SDGs達成に焦点を当てたビジネスモデルやアイディアを募集しています。常に新しいやり方を考えるために、若者のアイディアを育てることがとても重要だと思います。


おかい・あさこ◎東京都出身。一橋大学卒業後、外務省入省。ケンブリッジ大学学位取得。国連日本政府代表部公使参事官、第66会期国連総会議長室上席政策調整官、バンクーバー総領事などを経て、2018年に国連事務次長補兼国連開発計画(UNDP)危機局長に就任。中満泉・国連事務次長兼軍縮担当上級代表の後任。

構成=成相通子

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