「メジャーの球場には、外からタダ見ができる隙間をあえて作ってあることをご存知ですか?」
会場に立ち見が出るほど集まった聴衆の誰もが首をかしげた。外壁に隙間? 草野球の球場ならまだしも、日本のスタジアムでは考えられない話だ。
実は、アメリカでのスタジアム建設の歴史と関係がある。
時代とともに、球場はダウンタウンから郊外に移設されるなど立地には変遷がある。当然、土地取得の価格が大きく関係しているが、もう一つ、「スポーツにしかできない大義」があるという。
近年、あえて治安がよくない地域(もちろん地価は安い)に建設し、スポーツで地元の子どもたちに夢を与えるというものだ。スタジアムで治安が好転したという事例は聞かないが、この「大義」を掲げながら、壁に隙間をつくり、タダ見をさせている。父親とタダでメジャーの醍醐味と球場の興奮を覗き見した子どもは、野球が好きになり、いつかカネを稼いでバックネット裏で見てみたいと思うようになる。あるいはスター選手を夢見るようになるかもしれない。または、社会的に成功して球団のオーナーになりたいと思うかもしれない。なにを夢みたいなバカ話をと思われるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。あらゆる成功は、美しくもバカげた「勘違い」から始まるのだ。多くの成功者は、身のほど知らずの錯覚と情熱を原動力にしている。それを「隙間」から生み出そうという夢物語を、「ムリ、ムリ」と冷笑する社会に発展はないのではないか。
SPORTS BUSINESS AWARD2019審査員 斎藤隆(現ヤクルトスワローズ投手コーチ)
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2019年のForbes JAPAN〈SPORTS BUSINESS AWARD〉受賞者たちは、「隙間の情熱」を見つけた人たちだ。
昨年、ドイツで開催された体操の世界選手権に登場したのが、富士通の3Dレーザーセンサーである。これは選手の動きを計測し、難しい技の採点を支援するシステムだ。この大会で初めて男女4種目で正式採用され、世界標準として歩みだしたのだが、実は苦境から始まっている。
「あまり勝手なことばかりをやるなよ」
富士通の社内で上司に釘を刺された二人の社員がいた。「なんで体操なんだ」。そんな冷水をかけられていた二人は、野球やサッカーのようにカネになるとは思えないプロジェクトに情熱を傾けていた。
二人とも体操に関心があったわけではない。ゴルフのスイングを測定して、フォームや飛距離の改善につなげようとしていた。しかし、日本体操協会で「2020年にはロボットが採点する時代になるかも」という何気ない言葉にひらめいたのだ。
2012年のロンドン五輪で、日本は男子団体決勝で4位から銀メダルに復活する珍事があった。「未成立」と判定された日本の技が、日本チームの申し立てにより再検証されて「成立」となったのだ。このように体操は年々、高速化と複雑化によって審判が難しくなっている。そこで、富士通の二人は「世界を変えられる」と思い込み、あきらめずに研究したのである。競技人口が決して多くないスポーツであり、ビッグマネーを動かす競技でもない。しかし、採点という「信頼」で、一気に世界標準へと駆け上っていくのである。
審判がいないために体操競技が普及しない地域にも光をもたらす日本の技術として、本アワードで富士通は「ワールドクラス賞」を受賞した。
「ローカルヒーロー賞」の徳島県阿南市は、まさに「四国のフィールド・オブ・ドリームス」。草野球の聖地として、一年を通して全国からアマチュア野球の愛好家が合宿や試合に訪れる。これも「隙間の情熱」が発端だ。
試合を盛り上げるABO60のメンバー。アウェイのチームも心を込めて応援する。
試合終了後の一枚。野球をきっかけに、新しいつながりや事業が生まれている。
多くの自治体はプロ野球のキャンプや試合を招致しようとする。プロが試合をすれば、何万人と人が訪れる。だが、それだけの客を宿泊させる施設は地方都市にない。よって、ほとんどの人は日帰りである。また、プロが試合をするとなれば、球場も大型に改修する必要がある。ならば、12球団を招致するよりも、全国に草野球チームを呼び込もうではないか。そう考えて2010年、全国初の「野球のまち推進課」が誕生した。
甲子園出場校が合宿をして地元校と練習試合をするため、実力の底上げにもつながる。また、阿南市在住の60歳以上の女性からなるABO60(阿南市ベースボール・オバチャン)というチアガールチームも誕生。地元住民との阿波踊り交流会など、野球を通じて、一気に地域が活性化したのだ。その中心人物が「子どもの頃から野球が好きだったけど、体が弱く、この子は長く生きられない」と言われ続けてきた1952年生まれの田上重之であった。
徳島県阿南市 野球のまち推進課 初代課長の田上重之
その他にも、高校生のハンドボールの試合に10万人をリーチさせた、スポーツ配信アプリの「Player!」、腸内細菌のビジネスを起こしたサッカーの元日本代表鈴木啓太、eスポーツの新結合として新たなヒーローを生んだJリーグとコナミデジタルエンタテイメントなどが受賞。カネがない、市場が小さいといったハンディを乗り越えられるのは、アイデアの結合と情熱だ。
AuB株式会社代表取締役 サッカー元日本代表 鈴木啓太
まだまだ感動のタネは全国に埋もれている。スポーツとビジネスのユニークな融合こそ、世の中を活気あふれるものにできるはず。今年9月に開催される第2回は自薦・他薦の公募も行う。ぜひ、無心の情熱を開花させてほしい。
【8/14|公募〆切迫る!】SPORTS BUSINESS AWARD 2020 企業/団体募集
今回初の試みとして、新時代のスポーツビジネスに取り組む企業や団体を公募します。
ご応募頂いた企業/団体様の取り組みについては、アドバイザリーボード・編集部による審査会で審査を行います。選考を通過された企業/団体様につきましては、9/16に開催予定のオンラインイベントへご参加・登壇権をご提供いたします。
斬新なビジネスアイデアでスポーツ界にインパクトを与え、未来の市場を切り拓こうとする「勇者」たち──。下記の応募要項をご参照の上、ぜひ「Forbes JAPAN SPORTS BUSINESS AWARD 2020」にご応募ください。
▼【受賞特典】
選考を通過され、アワードを受賞された企業/団体様は、ご取材後、Forbes JAPAN Webサイトにて記事化、オンラインイベントへのご登壇権をご提供いたします。
「Forbes JAPAN SPORTS BUSINESS AWARD」とは
「Forbes JAPAN SPORTS BUSIENSS AWARD」は、"アスリートの能力やスポーツの楽しさ" と "異なる分野" を掛け合わせる「新結合」をテーマに、新しいスポーツの価値を生み出す挑戦者たちにスポットライトを当て支援するアワード企画です。スポーツを単なるエンタテインメントのコンテンツとして捉えるのではなく、アスリートの力、スポーツの魅力をもっと利活用して、新たな社会づくりや市場の創出という「未来」を築くことに繋げることを目的とし、昨年より特集を開始しました。
Forbes JAPAN SPORTS BUSINESS AWARD 応募要項
▼【応募対象】
新しいスポーツの価値を生み出す挑戦をしている企業・団体(自薦・他薦問わず)
▼【今後のスケジュール】
・2020年8月14日(金)18:00〆切
※選考を通過された企業/団体様は、9/16に開催予定のオンラインイベントへご登壇頂く予定です。
その場合は、8月下旬目処に編集部よりご連絡させて頂きます。
▼【応募方法】
こちらのフォームよりお申し込みください