60歳以上のチアガールにお接待、市民も巻き込んで、創意工夫によって地元に野球選手と活気を呼び込んだ。野望を先導したのはひとりの市職員だ。
(2019年10月25日発売のForbes JAPAN12月号「スポーツ×ビジネス」特集にて、アワードの全記事を掲載)
徳島県第二の都市・阿南市に野球のために宿泊した人は、この10年で10倍以上増え、2018年度にはのべ5000人を突破。直接の経済効果は1億3000万円を超えた(財団法人徳島経済研究所調べ)。
阿南市に日本初の「野球のまち推進課」ができたのは2010年だった。もともと、野球、それも草野球熱が異様に高い地域。推進課初代課長の田上重之は「昔、熱心な人がおったようです」と説明する。
その田上が07年、市内に県営のJAアグリあなんスタジアムができたのを機に、「野球のまち構想」を岩浅嘉仁市長にもちかけた。
プロ野球の試合を招致しようとする自治体もあるが、田上は大人の草野球に目をつけた。プロの試合があれば何万人と人は来るけれど、大半はその日のうちに帰ってしまう。草野球の大会ならやって来るのは十数人としても宿泊が発生する。平日はビジネス客が多い、つまり週末には余裕のある阿南市内の宿泊キャパシティは数百。「それを埋めればいい」と考えた。
うまくいくのかいぶかる声もあったが、天然芝の美しい球場、スコアボードに並ぶ名前、ウグイス嬢によるアナウンス、チアリーダーの声援、阿南にあるどれもが草野球選手には憧れだった。
市内の旅行会社牟岐通観光と提携して1泊2食2試合1交流会付きの「野球観光ツアー」を1人あたり1万3000円から用意し、大会の運営も積極的に引き受けたところ、県外からも還暦野球連盟に加盟するシニアチームなどを中心に訪問者が増えた。甲子園まで約2時間半の地の利を生かし、甲子園出場校の合宿も受け入れている。地元高校には、強豪校の胸を借りるチャンスが生まれ、実力の底上げにもつながった。
試合を盛り上げるABO60のメンバー。アウェイのチームも心を込めて応援する。
ご当地「アイドル」、ABO60が誕生
チアは、阿南市在住の60歳以上の女性からなるABO60(=阿南市・ベースボール・オバチャン)が務める。生家が田上の家の4軒隣で同級生でもある都崎文恵が「来る人に喜んでもらいたい」と市にかけあい、仲間に呼びかけた。ダンスの振り付けも衣装もその道のプロであるメンバーの手づくりだ。