VCのインサイト

「スタートアップの創業者兼CEOは、自らの給料をどれくらいに設定するべきか」というのはとても重要なテーマであるにもかかわらず、これまであまり表立って語られることがありませんでした。業界もしくはポジション別の給与相場はありますが、スタートアップに関してはあまりにも特殊なので、どれもうまく当てはまりません。

加えて、会社や創業メンバー個人個人の状況などがそれぞれ大きく異なるため、あるスタートアップに当てはまることが別のスタートアップには当てはまらないことも珍しくなく、判断が余計難しくなります。そのため、給料をいくらにすべきかについて、大まかな考え方を示すことはできますが、特に決まったルールなどは存在しません。

このテーマについて、PayPalやPalantir 、Founders Fundの共同創業者であるピーター・ティール(Peter Thiel)は、彼の著書である『Zero To One』の第9章で次のように強く主張しています。「CEOの報酬が少ない方が会社はうまくいく。これは私が何百ものスタートアップに投資した経験を通して気づいたことの中でも、最も顕著だった傾向の1つである」。

彼に言わせると、高い報酬を得たCEOは現状維持にばかり気を取られ、会社全体の価値を向上させる努力がおろそかになるからだそうです。現金報酬は現在の価値を表していますが、株式報酬は将来の価値と連動しています。よって、創業者兼CEOの現金報酬が高すぎると、会社の未来よりも、目の前のことに集中しがちになるようです。

ティール氏の主張は概ね正しいと思います。創業者兼CEOの現金報酬は、それだけでお金持ちになれるほど多額であるべきではないでしょう。しかし、個人的には、CEOが持ち株の一部を売ることの是非に関する記事でも以前述べたように、現金報酬の場合においても会社の成長ステージや個人の状況によって判断するべきだと考えています。

スタートアップの駆け出しの時期は、経済的に特に苦しい日々を覚悟する必要があります。運よく1年目に大きな売上を上げることができたようなケースを除けば、大半のCEOは自らの報酬をほとんど、あるいはまったく確保できないでしょう。スタートアップ創業後の最初の2年は、会社の基盤を固めるための期間です。

つまり、手持ちの資金は、トップレベルの人材を確保したり、プロダクトを開発したり、最初の顧客を開拓するために使うのが賢明と言えるでしょう。誰よりも早くプロダクト・マーケット・フィットを見つけ、より大きなシリーズAラウンドに向けて会社を十分に成長させるのに躍起になる時期です。そして支出が増えれば増えるほど、ランウェイ(資金が底をつくまでの残り時間)が減り、会社の存在価値を証明するための時間も少なくなってしまいます。

また、CEOの報酬は、社内の他のポジションに対する報酬の上限にも大きく影響します。ピーター・ティールの『Zero To One』によると、Boxの創業者兼CEOであるアーロン・レヴィ(Aaron Levie)は、「自分の報酬が常に会社の誰よりも少ないように気をつけていた」そうです。Boxを創業してから4年、彼はオフィスから徒歩数分にあるワンルームのアパートにまだ住んでいて、家具といえばマットレスくらいしかなかったそうです。

彼のこの姿勢は、会社のミッションを成し遂げるという確固たる意思を示すだけではなく、社内の現金報酬の上限を定める効果もありました。CEOが高い報酬を得ていれば、社員に対してもやはり高い報酬を払う流れになり、バーンレートも圧倒的に高くなります。

文=James Riney

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