そうは言っても、スタートアップの駆け出し時代におけるカップラーメンを主食として過ごすような厳しい日々は、とても長く続けられるようなものではありません。事業価値の大きな会社を作るには、7〜10年以上かかります。マラソンのようなものです。それなのに、まるで短距離走であるかのように全速力で走り続けようとすれば、途中で必ず力尽きて倒れることでしょう。
会社が成長し、次のステージへと進めば、その都度、CEOも自らの報酬を市場相場に徐々に近づけていくべきでしょう。これは、その方が公平だからとか、成果に対する報酬を得るべきだからという話ではありません。成果に対する報酬は、持ち株の価値が上がることを通して得られています。
それではなぜかというと、CEOの生活面におけるストレスを減らすのは、会社や株主にとっても戦略的に重要なことだからです。生活費の支払いに困るなどといったストレスがない方が、起業家も会社を成長させることに集中できる上に、早い段階でイグジットしてしまうような決断を下すこともないでしょう。
ここでもう1つ、考慮するべきポイントが浮かび上がってきます。それはCEOの個人的な状況についてです。共産主義的に思われるかもしれませんが、現金報酬を決める際には、創業メンバーそれぞれの個人的な事情が考慮されるべきだと、私は個人的に考えています。
例えば、家族を支える必要のある起業家の場合、最低限必要な生活費すら工面できないようなストレスフルな生活では、会社の業績にも影響が及びかねません。最低限を維持するための個人としてのバーンレートが高い場合、現金報酬もそれを考慮して決めた方がいいでしょう。
同様に、例えば以前立ち上げたスタートアップからのイグジットで得た利益がある、前職で高い報酬をもらっていた、家が資産家である、などの理由から経済的にかなり余裕がある場合、報酬が非常に少なくても問題ないでしょう。創業チームにとっては、現金ではなく、持ち株が彼らの成果に対する報酬になるからです。
要するに、素晴らしい企業を作り上げるには、まずは事業に集中できるように自分の生活面におけるストレスをなるべく減らすことが重要です。もちろん、やりすぎはよくないですが、難しく考えすぎる必要もありません。生活を維持するためにもう少しお金が必要で、会社も順調に成長しているなら、報酬額を引き上げましょう。CEOが企業価値の向上に向けて長期間集中できる方が、結局は全員のためになるのです。
連載:VCのインサイト
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