新型コロナ感染で脳に損傷の恐れ、英医師らが長期的影響を警戒

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった場合、これまでに報告されている典型的な症状が軽度でも、深刻な脳機能障害が起きる危険性があるという。学術誌「Brain」に掲載された論文は、その他の症状がまったくないにもかかわらず、神経系に問題が起きた人もいると警告している。

7月上旬に発表されたこの論文は、英国で新型コロナウイルスに感染した成人の患者40人を対象に行った調査結果をまとめたもの。これらの患者は、多くが発熱や呼吸器系の問題などCOVID-19によくみられる症状を示していたものの、いずれも軽度だった。だが、確認された脳機能・神経系の症状は広範にわたり、一部は深刻なものだったという。

55歳の女性患者(新型コロナウイルス感染以前に精神疾患を発症したことはない)は、発熱とせき、筋肉痛の症状があり、2週間にわたって入院、酸素療法を受けた。回復して退院したものの、その4日後に夫から、「混乱していて、行動がおかしい」との連絡があった。

診察の結果、この患者は自宅でライオンとサルを見たと話すなど、幻覚を経験していたことが分かった。妄想の症状が現れ、家族や病院スタッフに対しても攻撃的になったという。抗精神病薬を投与し、症状は3週間で改善したが、この論文のなかでは、完全に回復したかどうかは明らかにされていない。

その他のCOVID-19患者(16~85歳)が経験したほかの脳機能障害には、せん妄などの精神機能障害や、脳卒中、四肢に見られる末梢神経の問題などがあった。

これらのなかでも特に気掛かりだとされているのが、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と診断された患者が9人いたことだ。ADEMは、免疫系が中枢神経系を絶縁体のように覆っているミエリン(髄鞘)を攻撃したために起こるものと考えられている。ミエリンが損傷したり失われたりした場合には神経の電気信号が遮断され、まひや認知機能の問題など、さまざまな症状が現れる可能性がある。

ADEMを起こすケースはまれで、診断されるのは大半がウイルスに感染した子供だ。だが、この研究の調査対象に含まれる47歳の女性患者は、典型的なCOVID-19の症状が続いた後にADEMと診断された。脳が大きく腫れ上がり、頭蓋骨にかかる圧力を下げるため、骨の一部を取り除く必要があったという。

論文の著者の一人であるユニバーシティ・カレッジ・ロンドン病院のマイケル・ザンディ神経科医長は自身のツイッターへの投稿で、次のステップはこれらの原因の究明と神経系の症状の治療方法を確立すること、監視と疫学的な研究などだと指摘。「グローバルな共同努力が必要だ」と述べている。

COVID-19が神経系にも問題を引き起こすことは、この新たな研究結果が発表される以前にも報告されていた。この論文はさらに、新型コロナウイルスによって引き起こされたと考えられる脳機能障害の症状が、非常に多岐にわたるということを示している。

英国では、医師らがCOVID-19に関連した神経系の症状を報告し、このウイルスが脳に及ぼす影響についての理解を深めるためのプログラム「CoroNerve」が立ち上げられた。

COVID-19から回復した患者には、長期にわたって後遺症が残る可能性があることが指摘され、懸念が高まっている。論文の著者らは、神経系の合併症はまれではあるとみられるものの、同様に長く影響が残る恐れもあると警告。さらなる研究が必要だとしている。

編集=木内涼子

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