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今回のグラッドウェルはこれまでと一味違う

本稿はマルコム・グラッドウェル『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』収録の「訳者あとがき」を再構成したものです。「全米150万部」の本書、その大ヒットの理由を探ります。


「世界がめちゃくちゃな状況」は続く


最高の本! グラッドウェルはこの作品で多種多様なテーマ──世界がめちゃくちゃな状況のいま、とりわけ喫緊に向き合うべきテーマの数々──を取り上げている。グラッドウェルは巧みに岩をひっくり返し、その裏に予想だにしないものが隠れていることをわたしたちに教えてくれる。

──オプラ・ウィンフリー(O, The Oprah Magazine)

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アメリカの超人気司会者オプラ・ウィンフリー

アメリカを代表する女性司会者・慈善家であるオプラ・ウィンフリーが「世界がめちゃくちゃな状況」と表現したのは、2020年1月以降に新型コロナウイルスの脅威が地球全土に拡がる以前の世界についてだ。しかし、新型コロナウイルスによって社会の変容と分断が進むいまこそ、本書の訴えはより多くの人の心に強く響くはずだ。

本書は、現代アメリカを代表するベストセラー作家マルコム・グラッドウェルの最新作Talking to Strangers: What We Should Know about the People We Don’t Knowの全訳である。タイトルのとおり、本書のテーマはずばり「見ず知らずの相手とコミュニケーションを取ることのむずかしさ」についてだ。グラッドウェル自身、第2章の終わりでこうはっきり述べている──「この本で私があなたに何かひとつだけ伝えることができるとしたら、これにしたい──あなたのよく知らない他者はけっして単純ではない」。

なぜ私たちはほかの人の意図を読みちがえ、同じような失敗を繰り返してしまうのか? 本書の中では、見ず知らずの相手について人々が大きな勘ちがいをしてしまったために、混乱へとつながったさまざまなエピソードが登場する。

第二次世界大戦前にヒトラーの意図を勘違いしたイギリスのネビル・チェンバレン首相、イタリアで殺人の冤罪事件に巻き込まれたアメリカ人留学生アマンダ・ノックス、酩酊状態で女性を暴行したスタンフォード大学のエリート大学生ブロック・ターナー、少年への性的虐待容疑で逮捕された著名なフットボール・コーチのジェリー・サンダスキー、死ぬ運命にあると誰もが考えたアメリカの伝説的な詩人シルビア・プラス……。

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警官に車を止められた黒人女性は、なぜ自殺しなくてはならなかったか?


グラッドウェルがこの作品でとりわけ注目するのは、黒人女性サンドラ・ブランドの事件だ。2015年に、車線変更時に方向指示器を出さなかったという理由だけで逮捕されたブランドは、三日後に留置場で自殺した。この事件はアメリカで大きな論議を巻き起こして大ニュースとなったが、その報道姿勢や“物語の結末”にグラッドウェルはおおいに疑問を持ったという。

オプラ・ウィンフリーとのインタビューのなかで彼は、サンドラ・ブランドの事件をはじめ、黒人が警察官に殺される事件がアメリカで多発したことがこの本の執筆のきっかけになったと説明した。このような事件が起きた直後はセンセーショナルに報道されるにもかかわらず、人々の熱狂はすぐに消えてしまうと彼は憤る。この現象が繰り返されるのを目の当たりにしたグラッドウェルは、「自分たちとは異なる人々を評価することについて、根本的に何かが間違っているのではないかと感じた」という。

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