Close

PICK UP

世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版




製品の誕生までの魅力的なストーリーが、ユーザーの心を揺さぶる。
それが奥山清行氏の哲学だ。
世界的工業デザイナーが教える、少量多種生産時代に生き残るためのヒント。


「我々の仕事の基本は、デザインのストーリーを論理的に企業と最終顧客たる購買者へ伝えることです。提携する企業の中核に身を置き、販売戦略や広告展開を考え、生産現場に通って問題点を洗い出す。そのうえで、この商品がなぜ売れるのか、双方が納得するまで議論を交わします」
 イタリアが世界に誇る自動車、フェラーリ・エンツォやマセラティ・クアトロポルテのデザインを担当し、2007年には「KEN OKUYAMA DESIGN」を設立、現在では鉄道、家具、眼鏡、伝統工芸など多岐にわたる工業製品を手がける。革新的なデザインに目を奪われがちだが、奥山はそれ自体にはさほど意味がないと言う。
 日本では、工業デザイナーは発注者の意向を汲み商品の意匠を考える、というイメージが定着している。ビジネス全体の絵を描き、コストパフォーマンスにこだわる奥山は異質な存在のようにも思われる。
 そこで社会システムデザイナーという肩書を使う。既存の常識にとらわれず、生産、販売システムをつくって企業の活動を支援するところまで提案するという、自身の役割をはっきりとビジネスパートナーに伝えるためだ。

北陸新幹線は文化を運ぶ器

「少子高齢化、地方の過疎化が進むと、必要に駆られたニーズをもとに商品化し、大量生産を目指すというビジネスモデルは衰退していくと考えています。高揚感や快楽を喚起する、ウォンツの製品を世に送り出す企業が増えれば、日本社会全体に活気が生まれ、モノづくりの現場の機運も高まります。それは地方の産業が息を吹き返す鍵にもなりうるんです」
 そのひとつの例として自身が手がけた北陸新幹線を挙げた。
「鉄道でいえば、効率的にたくさんの人を運ぶ道具という発注者側の常識を変えるところから始めています。北陸新幹線は、“地場文化を運ぶ器”という考え方でデザインしました。乗車する人たちのなかには、ビジネスマンだけでなく、めったに一緒に過ごすことのできない家族もいます。車内で同じ風景を見て、駅弁を食べて、2時間をともに過ごすのはとても貴重な時間です」
 製作過程では、発注担当者の意見だけでなく、製造の現場や最終顧客の話も聞いた。何度も北陸に出向き、現地の文化を肌で感じた。ウォンツのビジネスを行う場合、こうした作業に時間をかけなければ、デザインイメージはわいてこない。
「結果、トータルソリューションとして、乗るだけで北陸の文化に触れ、大切な人と有意義な時間を過ごすという、かつてなかったコンセプトの新幹線が誕生しました。福井、富山などでは青銅器の文化が発達してきた歴史があります。そこで外観だけでなく、内装にも石川県の九谷焼の色彩美、北陸全体に広がる壮大な青空をイメージしたデザインを施したのです」

ライフスタイルをデザインする

 海外で華々しい活躍をしてきたが、根底には和の伝統への誇りをもっている。
 山形で過ごした少年時代、蒸気機関車に乗ったり、轆轤(ろくろ)を回して焼き物をつくったりしながら、工業製品に触れてきた。こうした経験が海外で成功できた遠因となった。
「イタリアでは、『モダン・シンプル・タイムレス』というデザイン哲学を学びました。これは余計なものを削ぎ落とす日本の伝統美と共通するものがあります。どんな製品をデザインするときにも、このことを常に念頭に置いています」
 現在はイタリアや国内の企業と組み、品質に優れた家具のブランディングの活動も行っている。
「僕がプロデュースしている『山形工房』でデザインした鉄瓶やいすは、確かな技術をもつ職人とのコラボレーションによって、美しい形状で、なおかつ機能性にも優れた製品になりました。今でも『山形工房』での経験は役立っています」
 多くの日本人が伝統や文化を感じながら、味わい深い人生を送ることを望んでいる。他業界のノウハウを移植する理由も、顧客の期待を超える結果を出すためだ。
「自分が所属する業界の常識だけに縛られると、新しいモノを生み出すことはできません。例えば、眼鏡業界の知識があると、チタンを鍛造する技術の先進性を家具にも生かせないかという考えが浮かびます。あるいは、別の業界の技術を吸収することで、コストパフォーマンスに優れた良質なモノを生み出すことができるのです」
 これらの家具、インテリア商品を扱う「IDC大塚家具」での究極の目標は、日本人のライフスタイルをデザインすることだ。「機能性だけを考えれば、高品質でモダンなモノをつくる必要はありません。しかし、暮らしを情緒的なものにするのに、本能的に欲しくなるものが家具だと思っています。30年の寿命をもつ家具をつくると、新しいモノを購入する機会は当分訪れないと考えがちです。しかし一度優れた家具を買うと、もっと魅力的なモノが欲しくなる。感性が磨かれていくと必然的にそうなるのです」
 ただし、ソファやテーブルを単体で売っても成果はさほど上がらない。人々のウォンツに応えるためには、暮らしの変化によって生じる、心の変化まで予測しなければならないからだ。
「未来の顧客の暮らしに想いを馳せ、インテリア全般を考えた製品を提供することで、日本のライフスタイルはより豊かなものになるでしょう」

文=篠原洋 写真=後藤秀二 編集=高城昭夫

記事が気に入ったら
いいね!しよう

LIKE @Forbesjapan

Forbesjapanを
フォローしよう

FOLLOW @Forbesjapan

あなたにおすすめ

合わせて読みたい