現役看護師の僧侶が語る、「死の1カ月前」頃から起こる3つのこと

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2. 痰が増え、しばらくすると元に戻る


亡くなる2週間から1週間ほど前になると、痰が増えてゴロゴロ音がします。痰が口から溢れるほどの場合には、必要最小限の吸引をしますが、そうでなければ何もしなくても、2、3日で自然に痰は消えます。ただし、点滴をしていると痰はどんどん増えていきます。

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人によっては、亡くなる数日前から数時間前に、痰が増えてゴロゴロ音がすることがあります。これを「死前喘鳴」(しぜんぜんめい)と呼びますが、痰の増加が起こる時期の違いであり、現象としては2~1週間前に起こる痰の増加と同じです。

私たちの気管は、粘液で被われています。呼吸によって取り込まれたほこりや細菌などの異物をキャッチするためですが、一方、粘液が流れ落ちて肺に入ると肺炎を起こします。そのため、気管には線毛と呼ばれる細かい毛がたくさん生えていて、それが運動して粘液と異物を喉の方に押し出しています。これが痰ですが、線毛運動がこの頃になると弱まってくるため、外に出せなくなって痰が溜まるのです。

痰が絡んでゴロゴロ音がしたりすると、私たちは「苦しいだろう」と思って心配になりますが、実は本人はそうでもないようです。

通常であれば、痰が増えるのは、細菌やウイルスに感染したときです。細菌やウイルスは私たちにとって異物ですから、感染して増殖すると、それを体の外に出そうとして痰も増えます。感染による炎症も起こっていますから、喉が痛いし咳も出ます。それで苦しいのです。

ところが、着地点に向かう人の場合は、細菌やウイルスに感染しているわけでも、炎症が起こっているわけでもありません。線毛運動が弱まって、溜まった粘液がゴロゴロしているだけです。そのため、端から思うほど本人は苦しくないと言われているのです。

この痰は2、3日すると自然に消え、元の呼吸に戻ります。線毛運動が弱まった、それまでよりも低いレベルで、調子が整ったのだと考えられます。

ただしこのとき、点滴を入れていると、いつまで経っても痰が消えません。痰の材料は水分だからです。点滴を入れることでどんどん材料を供給しているのですから、痰も無尽蔵に作られます。そうなれば、痰を吸引せざるを得ません。ところが、吸引するための器具を気管に入れることで、さらに痰が増えてしまいます。器具は気管にとって異物ですから、排出しようとして痰を増やすのです。この悪循環に陥ると、最初は1時間に1回の吸引でよかったのが、30分に1回になり、10分になり、5分になりと、最後は痰との戦いになってしまいます。
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