ライフスタイル

2020.06.27 11:00

味も空気も今っぽい。パリの「家ごはん」に出会える9区のビストロ

ウィレット(Willette)


初めて訪れたのは、1月の終わりだった。大規模ストがようやく少し落ち着きを見せ、市内の移動が混乱から解放された頃に、友人とディナーに出かけた。
advertisement

最近は、どんな店でも予約のコンファームをする電話が当日かかってくるが、それもなく、どこかしら、のんびりしたものを、出かける前から感じていた。

以前教えてもらった通り、夜のメニューは、昼とは違った。アペリティフ用の小皿料理もある。まずは、自家製テリーヌをもらって、おしゃべりをしつつ、続く前菜にはサラダを2種、メインには仔牛モモ肉にひよこ豆とルッコラの添えられた1品と、ブロッコリーのローストにポレンタのクリームとポーチドエッグをあしらった野菜が主役のひと皿を注文した。

1月の寒さのなかでも、パラソルヒーターがあればテラス席を好む人たちは結構いて、この日もやはり外のテーブルは埋まっていた。店内も満席だった。女性3人のグループが去ったかと思えば、家族での会合と思しき6人テーブルがあっという間にでき、カウンターには30代前半くらいの男性2人が、まるで「週に2〜3回、ここのカウンターで食べるんだよ」とでも言いそうな寛ぎ方で食事をしていた。
advertisement

こじんまりした店内の真ん中には、カトラリーやコップの並んだ楕円形のマーブルの台があり、テーブルは壁に沿ってしか配されていない。それら各テーブルに人々が集い、グラスを傾けている光景は、親しいグループがコーナーごとに集まっているホームパーティーのような親密さを醸し出していた。照明がまさに、フランス人の家の明るさ具合なのも、ひと役買っている。

とても親しみの湧く何かがあった


小口切りのシブレットを上に散らしたテリーヌは、肌理の細かいもので、だからと言ってぎゅっと詰まりすぎてはおらず、粗さや武骨さが魅力的なテリーヌとは対照的な美味しさだった。

それで期待が高まったところに出てきたサラダは、フランスにどこかの文化が合わさったような顔をしていた。頼んだのは、「ポロ葱とビーツ、フェタチーズにアーモンドのサラダ」と「赤キャベツとアンディーヴ、ブルー・ドーヴェルニュ(ブルーチーズの一種)のサラダ」。例えば、アンディーヴにブルーチーズはとてもクラシックな組み合わせだけれど、王道を行くなら、そこに加えるのはリンゴ、もう1つはくるみだろう。


ある日のランチで食べた、にんじんと根セロリのサラダ

ちょっと外したようなそのサラダを食べてみると、少し不思議な感覚になった。とても食べやすくて、馴染みのある味わいで、家で食べている気分になった。同じ組み合わせで自分はサラダをつくったことはないし、味付けも似ていると感じたわけではない。でもとても親しみの湧く何かがあった。ただ、それが何かはわからなかった。

メインでは同じ感覚にはならなかったものの、やはり、非常に食べやすかった。舌にも体にもするするっと馴染んで溶けていく感じだ。

デザートのバナナケーキがまた、手を止めようとも思わず食べ進んでしまうものだった。プディングに近い生地で、たっぷり目に載ったピーカンナッツ、わりとふんだんにかかった塩バターキャラメルのソースとのバランスが、持ち帰りたいくらいに、抜群だった。


バナナケーキ。すでに何度かリピートしている
次ページ > いまのリアルな「家ごはん」

文・写真=川村明子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事