シンガポール政府は既に、スマートフォン向けの感染追跡アプリの「トレース・トゥギャザー」を公開済みだが、ダウンロードしたのは国民の2割程度にとどまっている。今回のウェアラブルデバイスは、位置情報を使用せず、スマートフォン無しでも利用可能だ。
トレース・トゥギャザーの最大の問題点は、iPhoneにおいてバックグラウンドで作動しないことだ。つまり、常にアプリを開けておく必要があるため電力消費が多く、他の作業の邪魔になる場合もある。このアプリはブルートゥースを使用するが、アップルはセキュリティー上の理由から、アプリがバックグラウンドでブルートゥースにアクセスするのを許可していない。
その結果、政府は独自のデバイスの開発を決めたという。今回のウェアラブルデバイスは、クルマのキーなどにもつけられるサイズで、スマホ経由でデータを送信し、個人の感染動向を把握可能にする。
さらに、将来的に開発されるバージョンでは、モバイル通信に対応するチップを内蔵し、GPSを活用した詳細な位置データの把握も可能になるという。シンガポール政府は既に、国家登録身分証明カード(NRIC)のデータをアプリに紐づけ、感染者の追跡を行っている。
「政府はアプリにアップデートを加え、従来の電話番号に加え、NRIC番号を登録可能にした。これにより、感染者やその周囲に居た人々の特定がこれまで以上に迅速に行えるようになる」とバラクリシュナン大臣は述べた。
しかし、国民のプライバシーは保護されていると大臣は主張する。データは個人の端末の内部のみに貯蔵され、アクセスが許されるのは国家の保健省のスタッフのみであり、その個人が検査で陽性と判断された場合に限ってデータの取得が許されるという。
さらに、データの使用目的は感染の追跡のみに限定されており、25日が経過後にデータは削除されるという。
公衆衛生を維持しつつ、経済の再開を行う上で感染者の把握や追跡は非常に重要な課題となっている。
プライバシー保護団体や一般の国民らは、これらのテクノロジーに国民番号が利用されることに懸念を高めている。そのような懸念は今後も残り続けるだろう。しかし、スマホを利用中の人々は、既に個人を特定可能なデータを第三者に開示しているのが現実なのだ。