ポストコロナのスポーツ中継。メディアのソーシャル・ディスタンスはどうするか

今後はAIによる「自動撮影」が鍵となるだろう。写真はラトヴィアのアイスホッケー中継用の4Kカメラ


5Gを活用した手動による簡易撮影だけではなく、AIによる「自動撮影」のソリューションも昨今、市民権を得ようとしている。

NTT西日本は、朝日放送グループホールディングスとの共同出資により「NTTSportict」を4月に設立。5月にはモバイルアプリ「Player!」との協力により、無観客で行われるアマチュア・スポーツの100試合を無償で中継すると発表した。あくまで中学生から大学生までの試合を対象としてはいるものの、「Pixellot」というAIによる自動撮影機材を使用することで、人員配備を最低限に抑えている。


イスラエル発の自動撮影システム「Pixellot」を活用する様子

「Pixellot」とはイスラエルのベンチャー企業であり、同社が開発した自動撮影システムの名称だ。ひとつの機材に4つの光学カメラを内蔵しており、この機材をスタジアム内の適切な位置に設置し、内蔵されたカバー範囲の異なる4つのカメラで同時に撮影することができる。また撮影された4つ別々の映像をAIによりスティッチし、ひとつの画面として提供する。サッカーやラグビーのようなワイドなスタジアムでも、本システムを使えば全面を一挙に同時自動撮影できる。同社はこれを用いれば、撮影コストを「10分の1に抑えられる」としている。

ただし、デモ映像をご覧になればおわかり頂ける通り、ピッチ、グランド全体を俯瞰する画像になるため、アマチュアスポーツでは許容されても、有料視聴などを想定したプロの試合の中継には堪えられないだろう。AIにより自動的にカメラが切り替わるというシステムゆえに、その都度ズームしたりパンしたり、シーンごとに融通をきかせた映像を切り取るレベルまでには成熟していない。Pixellotもさらなる技術開発を行っているものの、NTTSportictが対象をアマチュアに絞っているのは、こうした足かせを勘案してのことだろう。

自動撮影は「Pixellot」に限ったソリューションではない。同じくイスラエルの「トラック160」やアメリカの「プレイメイカー」、スウェーデンの「トラキャブ」などなど、トラッキングとデータ生成を含め、実に様々なサービスが市場に出回っている。いまだ日進月歩の領域であり、各社ともにさらなる開発に注力する中、比較的新しいこの業界図が今後どう変遷を重ねて行くのか、目が離せない。

日本でのAI自動撮影の可能性は? NTTドコモは検証済み 



NTTドコモは、ラトヴィアのベンチャー企業「PlayGineering」と共にAI自動撮影について検証した。写真はシステムモニター

NTTドコモは2018年、ラトヴィアのベンチャー企業「PlayGineering」とともにAI自動撮影の可能性については検証済みだ。同名のシステムは、もともとラトヴィアで人気があるアイスホッケーの中継用に開発された。アイスホッケーの小さなパックをきちんと追尾する精度を誇っており、ラトヴィアの首都にある「アリーナ・リーガ」では、試合中継に使用されている。

このシステムは、プレーヤーとパックを追尾するとともに、AIを駆使して自動的にそのデータを生成する。アリーナの天井に垂直に設置した4K光学カメラでパックとプレーヤーの位置を記録、側面に配置された複数(計4ないしは6台)のカメラから選手を特定し、位置情報とマッチングさせることでトラッキング・データを抽出する。
次ページ > 日本へのAI自動撮影導入には法律上の思わぬ弊害が

文=松永裕司

ForbesBrandVoice

人気記事