ポストコロナの暮らしは「微生物と共生」を 顕微鏡の世界の可能性

「GoSWAB」伊藤光平代表。2018年Forbes JAPAN 30 UNDER 30に選出された。


しかし、その微生物の特性を人間の生活に活かそうとする取り組みもある。空気中や人間が接触するエリアなど、場所特有の微生物コミュニティの種類やその働きを研究し、空間づくりに活用することで、最適な環境をデザインしようというものだ。住環境だけでなく、仕事の能率が上がるオフィス、院内感染が起こりにくい病棟、食中毒の危険性を低減させる食品加工施設など、こういった空間づくりが環境問題解決の鍵になるのではないかという研究が世界中で行われている。

伊藤光平
GoSWAB代表伊藤光平

室内に微生物を放出し、森林のような空気をつくる


伊藤はこのような微生物を除去するアプローチの反対に、プロバイオティクスという有益で無害な微生物を環境中に加えるアプローチに可能性を見出している。伊藤が率いるGoSWABの活動では、室内に森林のような良い空気を作り出す「GreenAir」というデバイスを開発中だ。

「GreenAir」は1日に数回、森林由来の増殖力が強く無害な細菌を室内に放出。空気中や家具の表面など至る所に付着した細菌は病原菌の栄養源となる有機物を代謝して、有害な微生物が増殖するのを防いだり、花粉やダニなどのアレルゲンや不快な匂いを消費してくれる。高層ビルや大きな道路による排気ガス、騒音などの問題により、換気をすることが難しい都市の住居で用いられることが想定されている。

このデバイスを置くことにより、微生物コミュニティのバランスを適切に保ち、健康に暮らせる室内環境を実現する。微生物を用いた都市デザインを目指す伊藤が実用化するサービス第1弾と言えるだろう。

今後は微生物コミュニティのゲノム情報と、都市や室内から取った温度、湿度、建築材質、人口などの様々な環境データを統合的に解析しながら、都市に住む微生物と人間との相互作用を明らかにして研究を重ねていくという。また、都市における緑化が微生物の多様性を回復させ、人間の健康に寄与する可能性があることもわかっていることなどから、ゆくゆくはデベロッパーや行政、建築家などとも協業して微生物の多様性が高くなるような次世代の都市づくりを目指したいと話す。

私たちは普段から、ヨーグルトや納豆などの発酵食品を食べたり、微生物を活用した創薬による治療を受けるなど、意識せずとも微生物の恩恵を受けている。目に見えないものとの関わりであるため注目されにくいが、多様な微生物との「共生」は新しい概念ではなく、人間が生きる上で前提としてあるものなのだ。

微生物
綿棒で採取したものをゲノム解析する

伊藤は今後の微生物による都市デザインはどのように変化していくとみているのだろうか。

「Withコロナ時代と言われ始めていますが、ウイルスを始めとした微生物が身近にあるまま人間が生きているというのは、新型コロナウイルス以前からのことです。いま公衆衛生が話題になっているのもあって、微生物の話題はどんどん増えていくと思います。抗生剤で過剰に殺菌するようなことを続けていくと人間にも不利益になってしまうので、今すぐに微生物との戦いをやめなくてはいけないという雰囲気になっていくのかな。ウイルスに対して正しい知識を持って向き合い、共生を模索していかなくてはいけません」

新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより、いっそう明確になった世界の国々との「共生」。そして、ウイルスとの「共生」。これは、アフターコロナ時代のキーワードとなっていくだろう。マイクロスコピックな世界との共生に目を向けてみると、そこには無限の可能性があることを感じるのではないだろうか。

文=河村優

ForbesBrandVoice

人気記事