テクノロジー

2020.05.31 11:30

ポストコロナの暮らしは「微生物と共生」を 顕微鏡の世界の可能性

「GoSWAB」伊藤光平代表。2018年Forbes JAPAN 30 UNDER 30に選出された。


過度な除菌・殺菌は禁物、なぜ?


さらに伊藤は、過度に除菌・殺菌を行うことに警鐘を鳴らしている。細菌を抗菌薬などで除去しようとすると、一定数死なない細菌が出てくることがある。これを薬剤耐性菌という。抗菌作用のあるものを恒常的に使用することによって耐性がある細菌が生き残って増殖するようになり、結果として薬では太刀打ちできない細菌の数が増えてしまうのだ。
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こういった薬剤耐性のある細菌がもし病原性をもっていた場合、私たちはその細菌に感染しても薬による治療ができない。2050年にはガン死亡者数を薬剤耐性微生物による感染症死者数が上回るのではないかとも予測されており、今後大きな社会問題の1つになる可能性があるという。

乳酸菌
「GoSWAB」活動の様子。都市のあらゆる所を綿棒でこすり、ゲノム解析をして場所ごとの微生物を明らかにする

除菌・殺菌の徹底が叫ばれるこの時世だが、意外な落とし穴があった。通常の石鹸などで消毒する分には薬剤耐性菌は出ないとされているが、一部の抗菌グッズや歯磨き粉などの抗生剤を使用した日用品が室内に残留し、耐性菌の増殖を助長することもわかっているという。
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微生物を一概に排除するのでなく、多様性やそのバランスを崩さないまま関わっていくことの妥当性がわかる。

伊藤は今回の新型コロナウイルスの感染拡大について、「微生物は目には見えない生物なのでどのように対策をしたらいいかわからず、過度な除菌をしてしまったり、逆に効果がなさそうな製品を使ってしまったりと、未知との恐怖が目を曇らせている可能性があります。もちろん感染拡大防止のために専門家が推奨している範囲で適切な衛生対策はすべきですが、必要以上に怖がっている人が多いなという印象を受けました」と語る。

では適度な除菌とは何なのか。難しくも思えるが、例えばドアノブや玄関など室内でも多数が触れる箇所を意識的に除菌をするなど、場所ごとの住み分けを行うのがいいのではないかと言う。

実際、室内にいる微生物で人間に有害なものは2割程とも言われており、むやみにそれら除去しようとすると残り8割の無害な微生物まで殺してしまい、多様性が下がる。健康でいるために目に見えない微生物を取り除こうとしがちだが、状況に応じては多くの微生物を取り込んだほうが良いとは、なんとも皮肉な事実だ。
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文=河村優

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