コロナ危機は「自然界の逆襲」人類がグローバル依存から脱却すべき理由

国立環境研究所の生物学者・五箇公一


ウイルス発生源はまだ不明。求められる国際協調


新型コロナウイルスの起源は武漢だと言われていますが、実はまだ不明です。最初に武漢でクラスターが認知され、そこから人の流れとともにウイルスが世界に拡散したのは事実ですが、ウイルスを系統解析しても、現時点では武漢が発生地とは確定できないからです。

最近の論文によると、新型コロナウイルスの流行は、武漢でクラスターが発生する前の2019年11月末ぐらいから始まったと考えられています。では本当の発生源はどこなのか、今まさに研究者が研究している最中です。

こうした状況下で国際社会の分断が起きてしまうと、各国が情報の囲い込みに走る恐れがあります。政治の都合によってワクチンの開発や病気の制圧が遅れることは、我々研究者が最も懸念する事態です。各国のリーダーには、「分断」ではなく「協調」が人の命を救うために必要であることを十分に理解して協働体制に前進して欲しいです。

今回の教訓を得て、アフターコロナの世界では海外への依存から脱却する方向に国際社会が進むかもしれません。しかし、それが「協調」ではなく、「分断」の結果ならば、緩やかなローカリゼーションとは程遠い、医療や技術も含めた国内資源の独占に各国が走る可能性があります。

もしそうなると最悪ですね。人間社会の持続性は低下し、世界はさらに脆くなってしまうかもしれません。

五箇公一
調査を行う五箇公一。自然共生社会の本質について、私たちに問いを投げ掛ける

人間って生物学上では本来すごく弱い生き物です。弱いからこそ集まってコミュニティをつくって野生生物たちとの闘いに勝って、生き残ることができた。その過程で他の生物種が持たないヒューマニティという人間特有の性質を進化させた。血の繋がりのない他者も助けるという利他性こそが人間の武器であるのに、社会が肥大化し、物質的な豊かさが増すにつれ、自我や個人的欲求を優先させてしまうという利己性が利他性に勝るようになってしまった。

これからは「自然共生社会」の本質を見つめ直し、人はこれ以上野生生物の世界に立ち入ってはいけないことを改めて認識すべきです。かつての共生関係を保ってきた人間社会と自然界の間のゾーニングを取り戻すことが必要なのです。世界全体が独占主義的な考え方を捨て、自然共生を図り、持続的な社会構造へとパラダイムシフトをすることが求められます。


五箇公一(ごか・こういち)◎1965年生まれ。国立研究開発法人国立環境研究所 生物生態系環境研究センター 生態リスク評価・対策研究室長。農学博士。専門の研究分野は生態リスク学、ダニ学。著書に『クワガタムシが語る生物多様性』『ダニの生物学』『終わりなき侵略者との闘い〜増え続ける外来生物』『感染症の生態学』『これからの人生に必要な大人の生物学入門』など。

文=一本麻衣

ForbesBrandVoice

人気記事