エシカルジュエリーを制作、販売し、社会起業家として知られるHASUNAの白木夏子。彼女が師と仰ぐのは、レオス・キャピタルワークス代表取締役社長の藤野英人だ。人気ファンド「ひふみ投信」を運営し、新著『投資家みたいに生きろ』では「これからの人生戦略」を説く藤野が、高校時代に編み出した生き方のコツとは。
白木:投資ファンドで働いていた経験から、私にとって投資家のイメージは、四季報や会社が出す四半期レポートなどの数字を見て、投資の判断をする人でした。しかし藤野さんは、確固たる地位を築かれているいまでも投資先の代表者に直接会いに行ったり、自ら企業に足を運んで社内の様子を見たりと、地道に行動されています。
基本的なことですが、その行動をちゃんとやっている人はなかなかいません。その積み重ねが、藤野さんを形作っているのだと思います。鳥の目と虫の目、両方備えていらっしゃる方です。そこにいつも気づきがあります。
私のロールモデルは1人だけではないのですが、世の中の見方や仕事をする姿勢に関しては、いつも藤野さんから学んでいます。
藤野:白木さんは原石という自然の創造物と向き合い、エシカルな事業に本気で取り組んでいる、優しくて強い人。ヒーラーのように人の痛みを解消してくれるようなところもあります。
彼女は物でも人でも、緻密に対話している。時に緻密な対話が多すぎて、必要以上に重く受け止めてしまうことも。そういうピュアさが、他の人にないところだと思います。
そんな彼女に教えた、コミュニケーションの方法があります。人はいろいろな「軸」で話をしている。僕はいつも、この人はどの軸で思考しているのかを考える。その軸はだいたい次の4つに分けられます。
・損得を中心に考えている人
・正義、不正義で考えている人
・好き嫌いで考えている人
・美しいか美しくないかで考えている人
損得の人と正義・不正義の人がどんなに議論しても合意に至らないように、軸が違う人同士の会話はなかなか噛み合いません。
そういうとき、どうすればいいのか? こちらが変わるしかないんです。僕はその部分では結果主義で、最終的にその人と話して解決することが大事だと思っています。だからこそ、相手の思考軸に合わせて会話するようにしています。それは、僕の話し方のちょっとしたコツです。
僕の軸のベースは「好き嫌い」ですが、そこは相手に合わせて変えながら、コミュニケーションをするようにしています。
白木:藤野さんは、自分の価値観だけで物事をジャッジしません。もちろん経済や人に対する視点は持っていますが、だからといって、自分と違う考えの人を悪だと言いません。経営者はこうあるべきと強く押し付ける人もいますが、藤野さんはさまざまな新しいアイデアや考えを受け入れる方なので、素直に話すことができるんです。
もう一つ、藤野さんから学んだことは、SNSで自分の「弱み」を投稿して、さらけ出していることです。それを読むと、私もありのままでいいんだなと安心します。藤野さんのような人格者でも、嫌いな人もぶつかる人もいる。そういう姿を見せていただけることで、自分の背中を押してもらっている気がします。つらいときにつらいって言っていいんだよ、と見せてくれる。
藤野:「俺は最高だ」って書いてあるフェイスブックって痛々しいじゃないですか。本人はその痛々しさに気づいてないんですよね。そういう痛々しさは嫌です。計算して弱みを出しているわけではないですが、常に自分を客観的に見るようにしています。
半分冗談、半分本気で聞いてください。僕の外見は、実は「着ぐるみ」でできていて、中にはイケメンの細マッチョがいます。後ろにちゃんとチャックがあって、お風呂に入るときはそれを脱いで吊るしています。オーガニック素材で精巧に作られているんです。
何を意味するかというと、例えば誰かが僕の悪口を言っていても、それは単なる外側の着ぐるみの話。着ぐるみが悪口を言われているから、中にいるイケメンの細マッチョは気にしません。
批判や悪口を言われても自分を他人事にした瞬間に痛みはなくなります。いかに自分ごとにしないかが大事です。僕はこの方法を高校時代に編み出し、「着ぐるみ」を作りました(笑)。これも生きる上でちょっとしたコツです。
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白木夏子◎HASUNA代表取締役。1981年生まれ。国際機関、投資ファンドを経て2009年HASUNAを設立。 10カ国以上の宝石鉱山労働者や職人ととも にジュエリーを制作し、エシカル(=道徳的、倫理的)なものづくりを実践。
藤野英人◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。1966年生まれ。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年独立・創業。株式投資信託「ひふみ」シリーズを運用。一般社団法人投資信託協会理事。