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2020.04.30

「宇宙社会インフラ」はゼロベース・スタート。宇宙産業国内トップが描く新・生態系|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第4回(後編)

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「2つ以上の専門分野を持つことの強み」が言われ始めている昨今、実業 x クリエイティブで成果を結び、新しい才能として各界から注目を集めている人物がいる。上田岳弘。芥川賞、三島由紀夫賞、芸術選奨新人賞の著名三賞をデビューから最短で授賞し、小説「ニムロッド」でamazon書籍ランキング総合1位になった彼は、名実ともに現代日本を代表する純文学作家である。

上田は、文学者としての「クリエイティブな発想」を武器に、最先端のIT企業の経営にも取り組む実業家であることでも知られている。

本企画は、上田が「クリエイティブな発想法」を基にして、社会にイノベーションを起こす各界のリーダーと連続対談するものだ。

第3回の対談相手は、世界初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を運営する株式会社ispace代表取締役、袴田武史だ。

ispaceは「月を生活圏に。」を企業理念に、独自のランダー(月着陸船)とローバー (月面探査ロボット)を開発する宇宙企業。SpaceX社(ロケット・宇宙船の開発・打ち上げを業務とする米国企業、創業者イーロン・マスク)の「Falcon 9」を使用し、月着陸をミッションとして2021年に、月面探査をミッションとして2023年に打ち上げを行う予定だ。以下はその後編。

前編はこちら 「NASAに『輸送サービス』を売る。宇宙産業『100兆円市場』のロマン|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第4回
 

宇宙時代、生態系は拡張される


袴田:実は本格的に会社としてやっていく段階で、周りから「ビジョンはなんだ?」と聞かれ、必死になって考えたコンセプトが「宇宙に人間の生活圏を築くこと」だったんです。

上田:宇宙時代には、月の産業化によってある意味では「生態系が拡張される」。そうすると、生態系の定義のし直しみたいなことが始まっていくと思うんですよ。

確かに、地球上では石油が最大の燃料だが、月では水を活用しようという話になる。もしかすると月の技術が地球に逆輸入されて、地球上でも石油じゃなく水だ、となるかもしれない。そういうパラダイムシフトによって、人類のありかたというのも大きくかわっていくのではないかと。


芥川賞作家 上田岳弘

袴田:はい。人間には生まれながらにして、「領土を広げていく」モチベーションがインストールされていると思うんです。

深海から始まって海を制覇し、地上を制覇し、空もある程度押さえ、そして宇宙も今、少なくとも「端っこ」にはいて、これからさらに進出していく。逆にそういった動きをシャットダウンしてしまうと、生態系が閉鎖的になり、滅びる方向に行くんじゃないかなと。

全員が宇宙に行く必要はもちろんなくても、一部の人が宇宙に生存圏を広げていくことで、地球の永続性、持続性が高まっていくと思っています。生存圏の拡張が、人間が生存していくことを担保するんじゃないかなと。

上田:ちなみに僕は小説を何冊か発表してるんですが、大体、人類が滅びるものを書いてます。(笑)それは、「地球から出ていかない」前提で書いてきたんですよね。

しかし、考えてみるとおっしゃるとおりで、たしかに拡張しないと滅びる、その滅びのパターンを僕はいっぱい書いてるんですよ(笑)。なので今は、別のことを書いてみたいと思っています。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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