では一体、日本の安全保障とも大きな関係がある中国は、一部に指摘が出ているように新型コロナの感染問題を契機に、軍事活動を活発化させていると言えるのだろうか。
確かに、上述したように南シナ海で中国公船がベトナム漁船を沈没させる事件は起きた。4月8日には、沖縄・尖閣諸島の魚釣島沖で中国海警局所属の公船4隻が日本の領海に侵入した。自衛隊元幹部は「新型コロナが猛威を振るうなかで、尖閣諸島や南シナ海でこれまで通りの活動を維持していることは驚きだ」と語る。ただ、自衛隊関係者は「日本近海などでの中国軍の動向に、非常に変わった動きがあるわけではない」とも指摘する。別の自衛隊関係者も「中国は3月5日に開幕予定だった全人代(全国人民代表大会、国会に相当)を延期したままだ。政治プロセスが正常に戻る前に、冒険的な行動に出るとは考えにくい」と話す。
ただ、過去にはこんなこともあった。
かつて2011年3月、東日本大震災が起きた直後に、中国が日本の安全保障専門家に片端から接触を試みたことがある。原因は、横須賀基地にいた米原子力空母ジョージ・ワシントンが3月21日に出港した事案に目をつけたからだった。出港の理由は、福島第1原発の事故に伴う低レベル放射性物質の検知にあった。もし、外部から放射性物質が入り込めば、自分の艦内にある原子炉の放射能漏れを速やかに検知できなくなる可能性があるためで、米軍の規定通りの行動だった。
だが、中国側は「日米同盟に亀裂が入ったのではないか」と疑ったという。当時、中国側からコンタクトを求められた日本の安保専門家は「同盟の弱体化ではないのか、としつこく聞かれた」と証言する。当時、中国は初めての空母就航を間近に控えるなど、力を誇示して日米同盟に亀裂を入れようと躍起になっていた。日米は、震災直後の米軍による支援活動「トモダチ作戦」や、その後の日本の安全保障法制整備などで、「日米同盟の弱体化はあり得ない」というメッセージを中国に送ることに成功した。
中国軍は「中国共産党の軍隊であり、厳格な規律や政治的中立性を重視する民主主義国家の軍隊よりも政治的な思惑に左右されやすい一面があることは事実だ」(自衛隊関係者)。米国の一連の厳しすぎるとも言える中国へのメッセージは、現状はともかく、将来の万が一の事態に備えた警告と言えそうだ。