米国で革新的なリーダーシッププログラムを運営するミネルバ大学に協力をお願いし、日本、海外の多くの事例を知る組織・人材開発の最前線にいる人たちに話を聞き、「逆境を生き抜く組織カルチャー」について探る連載。
今回はミネルバ大学「Managing Complexity」プログラムの講師であり、日本のパートナー企業とともにイノベーションを起こす組織・人材開発、自律型組織開発に取り組む黒川公晴氏に話を聞いた。後編をお届けする。(前編はこちら)
黒川氏は、2006年外務省入省後、米国で組織開発を学び、ワシントンDC、イスラエル/パレスチナに勤務。その後日米安保、国際法など様々な分野で外交を手がけ、総理大臣、外務大臣の通訳を務める。その後外務省を退職し、小学校の同級生や幼馴染5人とともに合同会社こっからを福岡県糸島市に立ち上げる。
物事に本気で向き合うことでわくわくする「Playful(プレイフル)」をキーワードに、企業のエンパワメントやコミュニティデザイン事業を行っている。本年3月には、オランダ発の脳科学に基づくファシリテーション・メソッドを広める一般社団法人Brain Active withを設立し、活動の幅を広げる。
合同会社こっからco-founder/代表社員 黒川公晴
──前編ではM&Aによって生まれた多国籍チームの課題解決についてお話いただきましたが、今回は事業転換によって生じた組織開発の事例について教えてください。そもそも、どのようにしてプログラムを構成しているのですか?
依頼をいただいたのはシリコンバレーにある、数十名規模の日本企業の海外子会社です。日本人社長と多くのアメリカ人メンバーがいて、東京本社の指示を受け、経営方針の大きな転換を迎えている組織でした。
多くの企業が抱えるデジタル化による事業転換で、短期的には人員を縮小したところでした。会社の前向きな変化のために行われている解雇でしたが、昨日まで隣で働いていた人たちが去っていく光景は、残された人たちに不安と不信感をもたらしていました。
プログラムは、課題やクライアントによって変えています。まずは参加メンバーへの事前インタビューからはじめます。「なぜこの会社に入ったのですか」「今の会社のどこが好きですか」「もっとこうしたら良い、という不満点はありますか」「今回プログラムに招待されたことについてどう思いますか」といったことです。
この事例でも同じように事前にインタビューをしましたが、そこからは、個々人がそれぞれ異なる絵を見ていることが、面白いほど如実に分かります。認知バイアスが働いて、人間は基本的に見たいものしか見ていません。
口々に聞こえてくるのは「方針がない」、「ビジョンがない」という言葉でした。自らの仕事を守るという防衛本能は、保身のための組織政治をもたらし、皆が一枚岩になることを妨げます。この組織は傷んでいました。「あいつは何かやろうとしているんじゃないか」というような不信感がうずまいていました。個人攻撃や他部署への不満、不平等の訴えがあり、トップの日本人社長に多くの非難の矛先が向かっていました。