「企業の前提条件」「人生における幸せ」がわかれば、働き方はブレない
家入:先ほどお話しした「働き方だけを論じても仕方がない」は、まさにその話につながります。企業として「どうするか」に哲学があり、それに準じた設計が必要なんです。そして佐野さんが話したとおり、社員個人も「こういった働き方がしたい」をクリアにしないと、何が自分にフィットしているのかわからないまま、働き先を探すことになります。それが原因で、企業側とのミスマッチが起きている例を、よく見ている気がするんです。
僕は一昨年から、いろいろな地域をまわり、現地の人と話す機会を多く設けていました。そこでは、IターンやUターンで地元に戻り、がんばって働いている人たちがいる。なかには「東京で働いていたころより給与は下がったけれど、今のほうが幸せ」と話す人もいました。数年前までは、いわゆる負け組と言われた人たちかもしれません。ですが、そこには「自分の人生における幸せ」を見つけた人たちがいたわけです。
佐野:スタンスが明確だから、働き方に迷いがない。まさに今回、家入さんと話したいテーマです。というのも、この対談シリーズを始めるきっかけが、「人と企業の関係性をもっとフラットにできるのでは?」でした。
これまでの企業と社員の関係性は「従属的」だった。そのため、会社の自分と普段の自分を分ける「オンオフ」といった言葉も生まれていたし、それが当たり前だと感じる時代でもありました。しかし今は、終身雇用は限界だと言われ、従属関係が破綻し、企業と個人がフラットな関係になりつつあります。
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家入:企業と社員の間でフラットな関係をつくることは、非常に賛成です。でもこれは、経営者にとってとても厳しい状況になるなと思っています。というのも、経営者の発言は、やはり大きなインパクトがある。言い方ひとつを切り取られて、意図しない炎上が起きるなんて、よくあります。
佐野:ありますね。肩書が「経営者」「社長」になっているだけでポジショントークになりやすいし、社員からするとフラットに話しかけづらい。であれば、「フラットにする」を「合意形成をする」に言い換えるといいかもしれません。
「この仕事をしてください」ではなく、「これをやりたいんだけれどどう思う?」のスタンスで話を進めていく。そこで社員個人から「いいですね」と返ってきたら、合意形成したことになる。これはすごくフェアだし、お互いを尊重できています。