確かに、1990年代に世界中のマグロ漁業者は、漁獲量も収入も激減していた。そこで、北東大西洋を含む海域を管理する国際機関ICCAT (International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas、大西洋まぐろ類保存国際委員会)は、2010年以降、禁漁や漁業管理の徹底など厳しい資源管理措置を施した。漁業者には、1匹ずつのタグ付けや監視など漁獲証明が義務付けられ、国ごとのTACと言われる漁獲上限枠も削減された。
厳しい漁獲規制措置が功を奏し、わずか数年後には資源量はV字回復を見せ、2014年の総漁獲枠1万3400トンに対して、2020年には3万6000トンに。そして、臼井社長もこの資源量の増加を受け、2017年に持続可能な漁業を証明すべく、MSC申請の手続きを始めたという。
2020年2月、2年近くの長きにわたった科学的かつ客観的な審査によって、この申請が、MSC認証取得に値する持続可能なものであると結論付けられた。ところが、自然保護団体のWWF(World Wide Fund for Nature、世界自然保護基金)とPEW Charitable Trustがこの第一昭福丸のMSC認証取得に異議を申し立て、待ったをかけたのだ。
理由は、北大西洋のクロマグロはまだ資源量が十分回復していないのではないか、管理体制の整備にまだ時間を要するのではないかというものであった。臼井社長は、すぐに反論声明を自社のホームページ上で公表した。現在、結論は第三者の独立裁定人の判断に任されている。
欧米ではクロマグロを保護するべきだという感情的な意見も多く聞かれる。しかし、「持続可能性」は科学的根拠に基づいて議論されるべきで、その原則はFAO(Food and Agriculture Organization、国際連合食糧農業機関)の「責任ある漁業の行動規範」に示されている。
MSCの基準も、FAOの規範に従って、原則1に資源量、原則2に生態系への影響、原則3に管理体制を掲げている。今回の異議申し立ては、この科学的視点に、感情論やポリティクスなどその他の要素が加味されていないだろうか。
漁業資源管理の世界的権威であるワシントン大学のレイ・ヒルボーン博士が創設し、編集長を務めるウェブサイト「Sustainable Fisheries」でも、2月18日付で「WWFとPEWが、第一昭福丸の持続可能な漁業に取り組む努力と正当な科学による資源の回復を認めないことは、クロマグロの資源管理を阻むことに繋がる」と批判している。
筆者は、先般ローマにあるFAOの持続可能な漁業の国際シンポジウムに出席したが、科学を曲げる所業に対する警鐘として、FAOがその行動規範を科学で強化するべく「Strengthening the Science-Policy Nexus(科学と政策の連結の強化)」をテーマに掲げたことは意義深い。