ライフスタイル

2020.02.10 17:15

一流シェフが酒を飲みながら料理する「美食の聖地」とは?


みんなほろ酔い気分で、ワイワイおしゃべりしながら作ったメニューはどれもシンプルな家庭料理で、中でもメルルーサとあさりを使ったバスクの郷土料理“MERLUZA EN SALSA VERDE”は最高に美味しかった。火加減、そしてオイルとソースの乳化が美味しさの決め手。シンプルなお料理こそ、料理を知っていないと難しい。さすがサン・セバスチャン驚きの一皿だ。

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バスクの郷土料理“MERLUZA EN SALSA VERDE”

加えてレタスとトマトの簡単なサラダ、そしてフォアグラのパテをのせたバケットとともに、シンプルな食卓が完成した。

実はこの出張中、何軒もの名の知れたバルで食事をしたのだが、何よりもこのソシエダでの料理がダントツに一番だった。そしてスペイン語ができない私でも、周りと気持ちが通じあえるくらい、とっても楽しい時間だった。その理由はひとえに、このソシエダという空間にあったと思う。

ソシエダの人々はフロア真ん中のキッチンに集まり、料理を作りながら食べ、食べながら作る。けっして安くはない会費を払っているのに、「上げ膳据え膳」を期待する人は誰もいない。

どんなに有名なシェフも、高名な経営者も、学者も労働者も、ここのキッチンでは皆フラットな関係だ。料理をしない人も給仕やテーブルセッティングを担当し、各自がオーナーシップを持って役割を果たす。

何を食べたかというよりも、みんなで食材を買い、メニューを考え、料理を作り、飲んで食べて会話して共に楽しいひと時を過ごす。そんな料理に関わる工程すべてがエンターテインメントなのだ。

「料理全体のコンテンツを味わう」からこそ、こんなに美味しい──そんな空気を、私は生まれて初めてソシエダで体験したのだった。誰かのために作るとか、作ってくれた人に感謝とか、そんな関係性を取っ払い、「みんなで料理して、みんなで食べる」という、すごくシンプルなのに新しい境地だった。

「食べること」と「作ること」をごちゃ混ぜにしたコミュニティ


本間さんは、日本での美食倶楽部を通じ、男性が持つ料理への心理的ハードルを、飲みながら作るという「楽しさ」で乗り越えようとしている。でも日本では、会費制の美食コミュニティというと、お客様意識を捨てきれない人が少なくないという。けれど実際には、料理をしないという人でも、思い切って作ることに巻き込まれてみると、料理って案外楽しいことを発見してしまうものだ。

私たちの周りにも、「食べること」と「作ること」をごちゃ混ぜにしたコミュニティが増えれば、ジェンダーも年齢も関係なく、フードロスも孤食も一気に解決できてしまうかもしれない。

これから力を入れるべき「ガストロノミーツーリズム」だって、地元の人たちが集まり、郷土料理を一緒に作って食べられる場所、ちょっとイケてる公民館(笑)みたいなところがあれば、それだけで十分大きなポテンシャルになるはずだ。

本当の「美味しい」は、そういうところにあると思うから。食の最先端の地で、「上げ膳据え膳」ではない、美食の本質を見せてもらった気がする。

連載:それ、「食」で解決できます!
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文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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