実際にそうなれば、レバレッジや流動性ミスマッチから、ガバナンスの不備などによる運用リスクまで、金融の安定にさまざまなリスクをもたらす恐れがあると警鐘も鳴らしている。
FSBはビッグテック企業について、従来の金融機関の収益性を低下させたり、安定を損ねたりすることで、そうした金融機関のレジリエンス(回復力)を弱めかねないとも指摘。
「一部の地域では、少数のビッグテック企業が将来、特定の金融サービスの提供を多様化するのではなく、むしろ支配する可能性がある点も、一段の検討が必要な重要な論点である」とも記している。
20カ国・地域(G20)の金融諮問機関であるFSBはこのほか、ビッグテック企業が景気悪化時に信用供給を続けられるのかが分からない点にも懸念を示した。
一方、ビッグテック企業による金融サービス進出のプラス面としては、一般消費者のコスト軽減のほか、金融サービスのイノベーションや多様化、効率化などにつながる可能性があると言及。また、顧客のコストを軽減したり、従来の金融機関のインフラを効率化して、そのサービスを迅速化したりすることも期待できるとしている。
ビッグテック企業はさらに、電子商取引(EC)やSNS(交流サイト)のデータの高度な分析によって、従来、クレジットヒストリー(信用履歴)や担保がないために融資してもらえなかった消費者にも融資を提供できる。
特に新興市場国や発展途上国では、これまで銀行口座を持っていなかった人による金融サービスの利用を拡大することで、金融包摂を促進する可能性がある。
中国では既に頭角
この報告書によれば、ビッグテック企業は新興国市場では既に貸し付けや保険、資産管理といった広範な金融サービスを提供している。一方、先進国での活動は決済など一部のサービスに限られており、既存の金融機関の活動を補完する形になっていることが多い。
ビッグテック企業の金融サービス市場への浸透は、大半の国ではまだ比較的初期の段階にあるが、中国では既にかなり進んでいる。とはいえ、その中国でも、ビッグテック企業による新規融資は2017年時点でノンバンク全体の融資のわずか1.5%ほどにとどまっているのが実情だ。
FSBは報告書の中で、金融サービスを手がけるビッグテック企業は金融の安定に対して、フィンテック企業とは異なる、あるいはより顕著なリスクをもたらす恐れがあるとも指摘している。
既存の金融機関が中短期にビッグテック企業よりも優位な点は、長期にわたるロイヤルカスタマー(忠実な顧客)の基盤があることだ。一方で、そうした金融機関がビッグテック企業から、競合していくのに必要な巨額のIT投資ができるかどうかの判断を迫られている点にもFSBは注意を促している。