この理論を用いて将来的にサンゴ礁の再生や、保護が行えるかもしれない。研究者たちが流したのはクラシック音楽ではなく、健康的なサンゴ礁に満ちている自然のエコシステムが発する音だった。
生きたサンゴ礁が発する音を流すことで、死にかけたサンゴの群れの周囲に魚たちをおびき寄せる効果があるという仮説に基づいて、研究者らはこの実験を行った。その結果、この仮説が正しいことが裏づけられた。サウンドの効果で魚の数は2倍に上昇したという。
また、40日間の実験期間中に魚だけでなくサンゴ礁の活性化に必要なバクテリアの数も増えたという。魚たちはサンゴをクリーンに保ち、新しい命が生まれる場所を確保するのだ。
「魚たちのコミュニティが生まれることで、海中のエコシステムが活性化し、それがサンゴ礁の再生を助けることになる」と、研究を指揮したブリストル大学教授のAndy Radfordは述べている。
近年進む、サンゴ礁の破壊の主要因の1つにあげられるのは、生活排水や農薬の流入による海水中の窒素濃度の上昇だ。海水温の上昇や海水の汚染などのストレスを受けると、サンゴの体内の褐虫藻は大幅に減少する。緑や茶色の色素を持つ褐虫藻が減ることで、サンゴは本来の骨格の色が透けて見え、白色に変わっていく。
二酸化炭素濃度の上昇により、海水の酸性化が進み、壊れやすいサンゴの組織が崩壊してしまうのだ。
今回の研究結果は、自然のサウンドにおびき寄せられるのが魚たちだけではないことを示している。滝の音や、海辺に打ち寄せる波の音が、人類にリラックス効果を与えることは以前から分かっていた。健康的でナチュラルな環境は、どんな生き物にとっても欠かせないものなのだ。