「応援してくれた人たちへの恩返し」として16年間の現役生活のあとに選んだ道は研究開発ベンチャーの起業だった。(2019年10月25日発売のForbes JAPAN12月号「スポーツ×ビジネス」特集にて、アワードの全記事を掲載)
「こんなにシンドイってわかっていたら、起業なんてしなかったかもしれない」
そう言いながら快活に笑う鈴木啓太は、2000年に浦和レッズに入団。日本代表としても28試合に出場し、サッカー選手として輝かしい戦歴を誇る。
だが引退後の鈴木はサッカー界に残ることなく、「AuB(オーブ)」を立ち上げ実業家として再スタートした。そのビジネスの内容が面白い。
人間が生まれながら腸内に抱える細菌の群れを「腸内フローラ」という。その種類は約1千超、数にして100兆~500兆個以上もある。乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌と、大腸菌のような悪玉菌などによって構成された腸内フローラは、ひとりひとり固有のバランスで成り立っていて、大便を分析すると、その人物の身体状況が把握できるのだという。
AuBの取り組みが画期的なのは、その分析対象を運動選手に絞ったことだ。長年にわたる選手人脈を生かし、サッカー選手をはじめ、五輪金メダリストやプロ野球選手など、27競技の500人を超えるトップアスリートから1000を超える検体を採取。その分析の結果、免疫機能などに一般人と大きな差があるだけでなく、アスリート固有の細菌も発見したという。これらの研究成果から理想的な腸内環境を発見しサプリメントや飲料の形で提供することで、社会で働く一般的な人でもより理想的な腸内環境に近づきコンディションの土台を整えることが可能になる。
鈴木はこういったフードテックを皮切りに、将来的には遺伝子解析で得た腸内細菌のDNAを基にした特許ビジネスへの展開も目指している。
「アスリートの課題は『体重コントロール』、『筋力を付ける』、『メンタルの強化』といったようにすごく明確なので、腸内環境との相関関係がわかりやすい。マスターズ陸上に出場する70歳以上の高齢者でも、100mを13秒台で走る方もいますが、そうした長命でお元気な方に共通しているのは食欲が旺盛なこと。その強い内臓を維持できる秘密が、腸内細菌に存在すると思う。高齢アスリートの分析結果はかなりインパクトがあるはず」