そうした取り組みが功を奏し、アメリカ人が赤身肉を食べる量は、20年前に比べて減ってきている。ところがここにきて、その流れが逆転する懸念が生じている。
専門家14人で構成される国際研究グループが2019年10月1日、栄養に関する新たな推奨ガイドラインを発表。「赤身肉の摂取を減らすべき」というアドバイスは十分な裏づけがなく、私たちはこれまでと同じ量の肉を食べ続けてよいと主張しているのだ。
研究論文の共著者で、カナダ・ダルハウジー大学で地域の健康と疫学を研究するブラッドリー・ジョンストン(Bradley Johnston)准教授は、「全員とは言わないが、大部分の人にとって、赤身肉ならびに加工肉をこれまで通りに摂取し続けることは正しい選択だ」と述べている。
研究グループは3度のレビューを実施。精査された論文は合計61本で、対象となった総人数は400万人以上となった。これらは、赤身肉や加工肉を食べることで心疾患やがんのリスクが高まるかについて調査した研究だった。
研究グループは分析の結果、赤身肉の摂取を減らすべきだとする、広く推奨されているアドバイスについて疑問を呈し、この助言の根拠となった証拠はそもそも存在していないと結論づけた。
しかし、研究グループによるこの新しい栄養ガイドラインは、アメリカ心臓協会(AHA)などから批判を多く浴びている。さらに今回の分析結果が、食生活についての今後の指針に影響を与えるのではないかという懸念も生じている。
米国がん研究協会(AICR)は、研究グループの結論に異議を唱え、次のように述べた。「加工肉を頻繁に食べたり、赤身肉を多く摂取したりすることは、大腸がんのリスクを高める。そうした食品の摂取を控えなくてもよいと助言すれば、人々は大腸がんのリスクにさらされるうえに、食事に関するアドバイスへの信頼も損なわれることになる」
ハーバード大学の研究者たちは今回の結論について、「栄養学の信頼性を傷つけ、科学的研究の威信を失墜させる」と苦言を呈し、発表したのは無責任だったと述べた。
まず、今回の論文は、加工肉をこれまでと同じく摂取するよう勧めている。しかし世界保健機関(WHO)は、加工肉には発がん作用があるとの見解を示している。
それに、今回の研究結果について疑問を抱いているのは、グループ外の人間のみではない。研究グループに参加した専門家14人のうち3人が、最終的なガイドラインの内容について、反対の意思表示をしていたのだ。
新ガイドラインに寄せられた非難には、研究グループのレビュー手法が格別に厳しかったというものがある。研究グループは、肉の摂取と健康との関連を調査したデータの大半は観察にもとづいたものであると指摘。観察にもとづいたデータとはつまり、被験者が食生活について質問を受け、研究者側がその回答として収集したデータをもとにパターンを推測したものだ。