観察研究では、絶対確実な因果関係を確立することはできない。とはいえ、栄養学のあらゆる領域で行われる研究の圧倒的多数が、観察研究に依存している。
研究において最も確実な手法は、無作為化比較試験(被験者を無作為に介入群と対照群の2つに分け、のちの罹患率や死亡率などを比較する研究方法)だ。ただし、そうした試験を行うためには、長期間にわたって被験者に特定の食生活をさせなくてはならず、実施するのが難しいうえに、倫理に反する可能性もある。
こうした理由があるため、多くの研究が観察にもとづいて行われている。そして、観察研究をもとにしたアドバイスをすべて撤回するとなると、深刻な問題が生じてしまう。運動の推奨や、アルコールとタバコを控えるべきというアドバイスはおもに、観察研究で得た証拠をもとにしているからだ。
また、栄養学のあらゆる領域で、相反する研究成果が出ているが、だからといってこうした研究成果が有効でないという意味ではない。とりわけ、複数の研究にわたって一致が見られる場合はそうだ。
栄養に関する研究は、人々のあいだに、何を食べて何を控えればいいのかがわからないという混乱を生じさせてきた。今回の新ガイドラインは、その混乱の解消に役立つものではない。もちろん、すべての研究が厳格な基準に従って実施されることは非常に重要だ。しかし、今回の新ガイドラインがメディアで報道されることは、野菜中心の食生活の利点や、赤身肉・加工肉の過剰摂取がもたらすリスクに関する有益な研究を人々に伝える努力を損なうことになる。
研究グループは、もうひとつの重大な点を見落としている。肉の摂取量を減らそうとする動きは、人類の健康のためだけではない。肉食を減らすことは、工場式畜産によって排出される温室効果ガスを抑制し、動物福祉をめぐる懸念に対処するうえで、最も効果的な取り組みのひとつでもある。
気候変動の大きな一因となっているのが、畜産と酪農だ。畜産は、人間が世界全体で1年間に排出する温室効果ガスのおよそ14.5%を占めている。従来通りに肉を消費し続けるほうが、減らすよりも動物福祉や地球にとっていいことを示す研究は、どこをどう探しても見つからない。
健康と肉の消費のあいだにはもうひとつ、間接的な関連性がある。気候変動は、私たちの健康に悪影響をもたらすのだ。温暖化で気温が上昇すれば、日射病や熱射病のような暑さが原因となる病気が増えるほか、高温による死亡のリスクが高まったり、ぜんそくや心疾患などの病気が悪化したりする場合もある。
これまで通りの量の肉を食べ続けてよいと推奨することは、今後も同じように企業活動を続けていけるという考えを強化することになるが、それは危険だ。もはやそんなことはできないからだ。アメリカ人の一般的な食生活は、現在の栄養基準を満たしていない。果物や野菜、食物繊維の摂取量が少なく、飽和脂肪や糖分、カロリーが過剰だ。そのせいで、死が早まったり、心疾患や一部のがん、糖尿病に罹患したりしている。
いずれにせよ私たちは、糖尿病や心疾患、卒中、がん、死亡のリスクを低下させる食品の摂取を増やさなくてはならない。果物や野菜、全粒穀物、豆類でお腹を満たす一方、飽和脂肪を減らし、カロリーを過剰に摂取しないよう、気をつける必要があるのだ。