ビジネス

2019.10.07

「徳川家」に学ぶ 長く在り続ける企業の組織づくり

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、PCIホールディングス代表取締役会長の天野豊美が「関ヶ原」を紹介する。

天下分け目の決戦、関ヶ原。

勝利した後、二百数十年続く江戸時代の礎を築いた徳川家康と、戦いに敗れて六条河原で斬首された石田三成の明暗を分けたのは何だったのでしょうか。

企業に例えて考えてみましょう。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、孫正義氏など、大成功を収めた起業家は人を一瞬で魅了し、チームを力強く先導する「カリスマ性」を持つ人が少なくありません。豊臣秀吉にもカリスマ性があったのか、加藤清正や福島正則など、多くの猛将が彼を支えました。

三成もそのひとり。朝鮮出兵時の補給部隊を考案して勝利に貢献するなど、「ナンバー2」として、秀吉に忠実に仕えました。

トップを中心に、幅広い視野や斬新な発想を持つ人など多彩な人が集まることで、大きなビジネスを成し遂げる企業の構造とよく似ています。企業にとって、この「ナンバー2」という役割はとても重要なポストです。

それはナンバー2が、経営者の不得意分野を補いつつ、取引先と良好な関係を構築するために迅速に行動したり、相手が何を欲しているかをいち早く察したりするなど、社内外にわたって様々な能力が求められる存在だから。

しかし、三成は、優秀ではありましたが、人の気持ちを理解しようとせず、豊臣家の後見人になった後、同僚たちから激しく攻撃されました。未来を見据えて根回しをし、多くの大名を味方につけた家康との差は歴然。豊臣家という「企業」が立ち行かなくなったのは当然だったと言えるでしょう。

私は、以前勤務していた外資系企業で、最年少の役員となり、常務も経験しました。そこで、トップの考え方や経営方針が、その後の会社の在り方に大きく影響するのだと知り、生き方が変わったように思います。

そして今、私は一経営者として会社を運営しています。今の私が最も優先すべき課題は、長期に続いた江戸時代の土台を築き上げた家康のように、魂のこもった組織を作ることです。欧米企業は、トップが変われば組織ごとすべて入れ替わりますが、日本企業は別。

たとえトップが変わっても、組織がそれを受け入れ、引き続き機能していきます。強い組織さえ作り上げることができれば、様々な変化を受け入れながら、長く在り続ける企業になれるのです。

このように歴史小説は、私たちに多くのことを教えてくれます。歴史を通じて、勤勉さや正直さを持つ日本人のルーツを知れば、日本企業が作る製品がなぜ高品質なのかなど、日本が評価される理由がわかるはずです。ただし、外資系企業のスピード感、決断の早さは日本企業として見習うべきでしょう。


あまの・とよみ◎1949年生まれ。75年、青山学院大学経済学部卒業後、日本エヌ・シー・アール(現日本NCR)入社。2005年M&S(現PCIホールディングス)を設立し社長に就任。17年12月より現職。15年8月東証マザーズ上場。16年9月東証一部に市場変更。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN 空気は読まずに変えるもの日本発「世界を変える30歳未満」30人」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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