世界から渋滞を追放するイスラエル発「信号アルゴリズム」の実力

エルサレムの旧市街の壁近くでポーズを取るアクシリオンCEOのオラン・ドロール(左)と、創業者のイラン・ウェイツマン(右)。背後を走るエルサレムのライトレールに同社の信号制御技術が使われている。

「50歳近いおじさんがスタートアップだなんて、どうかしてるって娘たちが笑うんだ」と1970年生まれのオラン・ドロール(49)は苦笑する。「うちの子供たちも似たような反応だ」と隣に立つイラン・ウェイツマン(50)があいづちを打つ。

夕暮れのエルサレム市街。談笑する男たちの後ろを、鈍いシルバーに塗装されたトラム(路面電車)が走り抜けていく。

「交通分野の起業家には辛抱強さが必要だ。ベンチャーキャピタルから派手に資金を調達して、2〜3年でIPO(新規株式公開)を目指すような若者向きの世界ではない。頭の固い政府の役人を説得するのは泥臭い仕事だし、10年以上先まで考えるロングタームの思考が必要だ」

そう話すドロールがCEOを務めるAxilion(アクシリオン)は道路の混雑状況をリアルタイムで把握し、一般車両に混じって走るトラムやBRT(バス高速輸送システム)を優先し、渋滞を緩和するソリューションを都市に提供する。

エルサレムのトラムは同社の技術で従来80分かかった道のりを約40分に短縮し、世界でただ一つの「信号で一切止まらない路面電車」を実現した──。路面電車というと、古くさく聞こえるが、公共交通という古いインフラを変えれば、まるでドミノ倒しのような連鎖反応が起こるのだ。

「現在の世界の交通信号の大半は、1990年代前半のパソコンのような状態だ。信号はメーカーごとに異なるプロトコルで動いている。そこに共通言語を導入し、AIで制御を最適化する」とドロールは同社のソフトウェアの役割を説明する。

「ウィンドウズは分裂状態にあったコンピュータを、共通の言語で結びつけた」と話すドロールは、2005年からマイクロソフトに10年間在籍し、年間売り上げが25億ドルを超える中東アフリカ部門を率いた経歴を持つ。

「グリーンウェーブ」と呼ばれる青信号の連続

アクシリオンを2009年に設立したのは、現CTO(最高技術責任者)のウェイツマンだ。イスラエルの技術系トップ大学、テクニオン(イスラエル工科大学)出身の彼は、「40歳を目前に控え、何か新しいことをやりたいと思っていた」と話す。

「その頃、友人からエルサレムのトラムの信号制御のソフト開発を依頼された。従来は15分間隔で運行していた車両を、5分間隔にするミッションだ。一般車両と道路を共有するトラムの運行速度を上げるためには、交差点でトラムを優先する必要がある。しかし、トラムにだけ青信号を与え続けると大渋滞が発生してしまう。まったく未知の分野だったが、技術屋の血が騒いだ」

数名のエンジニアを集め、アクシリオンを創業した。そして開発した信号制御アルゴリズムは「グリーンウェーブ」と呼ばれる青信号の連続を公共交通にもたらし、渋滞を緩和することに成功した。

2011年にトラムの整備が完了すると、まさにドミノ倒しのように街の風景ががらりと変わっていった。エルサレムの中心部から車が消え、排気ガスに満ちた街の空気は変わり、石畳の上を歩行者たちが行き交う、人々の賑わいが生まれたのだ。
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取材・文=上田裕資 写真=Jonathan Bloom

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