アフリカの繁栄に欠かせない「人道-開発-平和」の連鎖 ── TICADの成果

隣国ナイジェリアからの避難民を訪ねる筆者(ニジェール、2016年10月13日)(c)ICRC


アフリカ開発銀行然り、ICRCは2017年以降、旧来からある人道支援のための資金調達モデルを超えて、画期的な事業を展開するために、企業や国際金融機関、財団など新規のアクターと提携する革新的な道を探っている。

企業を集めて、ナイジェリアやマリ、コンゴ民主共和国の身体リハビリテーション事業に投資する史上初の「ヒューマニタリアン・インパクト・ボンド」と銘打った債券も発行した。5年のうちに成功裏に完了すれば、各国政府が、当該事業に投資した企業に返済を行うアウトカムファンダー(成果に対して対価を支払う主体)となる。既に2年が経過したが、事業は順調に進んでいると私から自信をもってお伝えしよう。

ナイジェリアではトニー・エルメル財団と提携している。財団の指導プログラムやネットワーク、その他の支援制度を、同国北東部やニジェール・デルタ出身のナイジェリア人起業家が利用できるようにサポートし、能力開発を進めてきた。コンゴ民主共和国のゴマでは、長期にわたり確実に持続可能なサービス提供を目指して、人口35万の水インフラを支える投資モデルを検討している。


ナイジェリア北東部アダマワ州のミチカ市場に新鮮な商品を運び、地域の商売再興に一役買ったトラック。現金を融資する際、個人や家庭だけでなく、コミュニティーにも恩恵がもたらされるように支援する(c)ICRC

人道的な投資家や慈善家が果たす役割は重要だが、国家もまた、人道事業向けに民間資本を解放する枠組みを設けなければならない。ヒューマニタリアン・インパクト・ボンドでは、いくつかの政府が民間投資家に対して必要かつ不可欠な保証を提供した。

世界銀行などの国際機関や企業団体とも協力して、飢餓を防ぐための初期警告システム「飢饉行動メカニズム」の構築にも取り組んでいる。飢餓のリスクを金銭に換算して、一定の基準に達したときに支援に必要な財源を組織に提供する仕組みを作り上げるため、財務メカニズムの開発が必要となってくる。 

最も能力に長け、経験のある組織や企業がこのプロジェクトの可能性を見出し、チャンスを逃すまいと乗り出していることは意義深い。突き詰めれば、その成功を左右するのは、技術的な対応能力のみならず、国家機関の政治的意思にかかっていると言っていいだろう。人道危機が発生する際に生じるコストを緩和する代わりに、予防のための資金調達モデルへ投資しようとする意思だ。


ヒューマニタリアン・インパクト・ボンドによって首都キンシャサに建設中のリハビリテーションセンター(コンゴ民主共和国、2019年6月13日)(c)ICRC 

アフリカはビジネスチャンスに事欠かない

長期にわたり紛争状態にある地域が多く存在するため、アフリカでも、人道と開発は持ちつ持たれつの関係性にある。幸いにして、この大陸で共通の解決策を見つけ、それを支援しようとする投資家や企業パートナーの関心は昨今高まりつつある。

早稲田大学とは、TICAD前日にキックオフとして「世界をよくするビジネス ─アフリカにおける人道支援の課題と民間セクターへの期待」と題したセミナーを共催した。世界に貢献する市民を育てて輩出することをモットーとする早稲田大学とは、昨年11月に人道支援の革新的技術の開発を含む共同プロジェクト/プログラムで連携することに合意し、覚書を交わしている。

私は、日本の経済同友会の前副代表幹事や、アフリカ開発銀行副総裁、早稲田大学総長など、錚々たるメンバーとともに登壇した。「日本ではビジネスと人道支援がなかなか結び付かない。そもそもそこから利益を得ていいのか? 進出のリスクはどれほどなのか?」という阻害要因がまずパネリストから提示された。

20から30の不安定な国を抱えるアフリカでビジネスをするには、利益を求めるのではなく、まずは安定に向けた投資が必要だと私は考える。そのためには、人材育成を通じて能力開発に投資し、経済的自立の道を示すことが大事だ。

まずは現地の状況を分析・把握し、強靭な社会を築いて、活気付けなければいけない。それには、教育とイノベーションが重要なカギを握る。平和な日本が考えるビジネスモデルをそのままアフリカに適用するのではなく、新たな発想や別の視点から機を捉えてはどうだろうか。これが、今回の私のTICADの総括だ。

アフリカはビジネスチャンスには事欠かない。でもそれらビジネスが現地の人々の“支援依存”を回避し、“持続可能”な発展に貢献するためには、「人道─開発─平和」の連鎖を生む新たな視点や、そこに注ぎ込むエネルギーと熱意が必要だ。

文=ペーター・マウラー

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