アフリカの繁栄に欠かせない「人道-開発-平和」の連鎖 ── TICADの成果

隣国ナイジェリアからの避難民を訪ねる筆者(ニジェール、2016年10月13日)(c)ICRC


マリのケイタ大統領とは、気候問題や社会経済の悪化に加えて、戦闘状態に置かれた北部コミュニティーの人道ニーズについて意見交換し、ニジェールのイスフ大統領とは、サヘル地域の情勢不安や同地域のコミュニティーの自立・発展に主眼を置いた継続的支援について協議した。

このように、アフリカには巨大な人道ニーズがある一方で、戦争の被害を受けた人たちを助ける資金はどこにあるのだろうか? 国連のデータによると、2019年の人道支援には、世界全体で260億ドル(約2兆7650億円)が必要だが、7月の時点で、その27%しか調達できていない。

ICRCの活動資金の9割強は、戦時のルールであるジュネーブ諸条約に加入している政府から任意で拠出されている。その私たちも、ドナーからの寄付だけでは成り立たなくなっているのが現状だ。人道支援を世界各地で展開するため、新たな資金調達の道を見つける必要性を痛感している。

明白なことが一つある。それは、現代における人道危機の規模と複雑さに対処するには、もはや旧来の単発的な対応では不十分、ということだ。旧来の資金調達方法も依然重要であることは変わりないが、同時に、サービス提供システムを構築するための刷新的な財務モデルも見つけなければならない。

例えば、3人の子どもの母であるジャクリーンのように、コンゴ民主共和国で戦闘に巻き込まれ、脚を撃たれて切断せざるをえなかった人たちだ。ICRCの支援を経て、ジャクリーンは義肢を付け、裁縫師の訓練を終えた後にミシンを購入。今では家族を支え、子どもたちが学校に行けるだけの稼ぎを得るに至った。


裁縫教室に通って生計手段を手に入れたジャクリーン。客の注文に応じて服を仕立てている(コンゴ民主共和国、2019年8月25日)(c)ICRC

戦闘によってジャクリーンが背負わされた運命を克服できるよう支援することで、彼女だけでなく、家族の命も救うことになる。自活するための生計手段を得て、未来の道を切り開いてもらうため、スキルや能力の育成は必須だと、私は確信する。

ICRCはミクロ経済プロジェクトを強化して、人々が補助金に頼らず、小さな事業を起こして経済的に自立できるようにする一方で、自主性を取り戻そうとする人々に必要な元手として起業時の少額援助を行っている。

持続可能で強じんな社会を構築

同時に、より大きな視野に立った対応も必要である。人道主義を掲げる者として、短期間で必要な救済策も講じつつ、社会全体の構造的な問題にも取り組み、持続可能で強じんな社会を構築しなければならない。

それらを並行して進めるためには、短期的な目標を達成するために行ってきた旧来の緊急人道資金調達の形とは別に、長期的な視野をもって予算を組む必要がある。TICADでは、アフリカの指導者やJICA、NEC、早稲田大学などとともに、長期にわたる活動を支える資金をどう調達し、いかにして根本的な人道問題に取り組むモデルを構築するかを議論した。


早稲田大学とのTICADキックオフセミナー(東京都中央区、2019年8月27日)(c)ICRC

またアフリカ開発銀行とは、サヘル地域やチャド湖周辺地域の情勢の危うさについて、今後の支援の形について意見交換をした。これら地域は、投資や介入が必要として、同銀行が優先課題に掲げている。女性の社会進出や医療、水、生計、農業における支援がカギとなる中で、まずはどこから始めるべきかを議論した。
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文=ペーター・マウラー

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